母さんの話よりも先に、謝らせて欲しい。外にいた私を迎えに来たカナタに頼まれたことだ。私がいない間に何の話がされていたのかは分からない。だから一先ず、一番大事なことはママが言う、とだけ約束し彼に託したのだけれど。その結果、今盛大に誤解を生んでいる。

「宏海、ごめん。初めから説明するね」
「いいよ、いいよ。そういう、ことでしょ? 分かった」
「そういうことって、ちょっと。違うんだって。待って。お願い、聞いて」
「……ごめん、ママ」

 立ち上がろうとした宏海と彼を必死に止める私。オロオロとそれを見つめて青褪めたカナタが、口を滑らせた。大丈夫よ、と彼の膝でポンポンと優しく手を弾ませ、笑ってみせる。宏海は、今の言葉に驚いたのだろう。ヨロヨロと再びソファに腰を下ろした。今は、私が冷静にならなければ。

「宏海。ごめんなさい。今まで黙ってたんだけれど、この子、佐々木カナタは私の息子なの」
「……息子?」
「うん。前に、離婚をしたって話をしたよね。その夫との間に生まれた子。それがこの子なの」

 ついに告げた事実。狐につままれたような顔をした宏海は、上手く飲み込めてはいないみたい。匡が、コーヒーを二つ机に置く。カナタのも作り直してくれたようだ。ここを離れた匡はカウンターへは戻らず、二つ隣の席に腰を下ろした。沈黙したままの宏海を心配しているのだろう。先に匡に話をしておいて良かった。

 さて、どう話を進めるか。そう頭を悩ませたが、あの、とカナタが宏海に話しかけた。私を見てコクっと頷いたから、とりあえず聞くことにする。カナタ自身が、宏海に伝えたいことなのだろう。

「以前、僕の名前の話をしましたよね」
「あ……うん。したね。佐々木くんの名前はカタカナなんだねって。お父さんの名前を貰ったんだ、ってそう教えてくれたね」
「はい。でもあの時、僕は事実とは違うことを言いました。僕の名は、父の名前からではなく、父と母の名前を足してカナタ。エイタとカナコを足して、カナタ、です」
「エイタとカナコ……」

 一人称を僕に変えたカナタ。そこは冷静に選択したようだ。宏海がおずおずと私を見る。本当よ、とだけ付け加えた。