「おばあちゃん、なぁに?」
「あぁ……えっと」
「中川さんのこと?」
「え? 宏海くんのこと、聞いてるの?」
「いや、何と言うか複雑なんだけどね。俺、こういう会社で働いててね。実は、中川さんの担当してるの」
祖父母に名刺を差し出す。当然の如く驚く二人に、ママを探していたから、と話し始める。数ヶ月前と同じように。担当になったのは、本当に偶然だということ。彼に悪印象は抱いていないこと。そこは丁寧に話したつもりだ。
「そう。カナコを探してくれてたのね」
「うん。ずっと探してた。それでね、偶然中川さんと母さんが一緒に暮らしてるって知って。正直、複雑だった。あぁ幸せなんだな。俺のことなんて忘れたんだろって。憎しみはあったけど、会う勇気はなくてさ。それがたまたま、俺の誕生日に母さんが小田原に行ってるって知って……確認してやろうって思ったんだ。恨み言の一つや二つ。ぶつけてやるつもりだったのにさ……結局、ママはママだったよ」
その言葉に尽きると思っていた。母はどこまでも、俺の母だった。当然それは嬉しくて、あれから俺の生活は徐々に血が通っていった気がする。おじいちゃんは何も言わないけれど、おばあちゃんはまた泣きそうだ。そういうところ、すごく母さんと似てる。やっぱり親子なんだな。だって俺も、また泣きそうなのをグッと堪えていたから。
「ねぇ。あの二人って結婚してないでしょう? 多分俺のことを気にしてるんだと思うの。正直言って、二人はどう思ってる?」
「……そうね。私は、やっぱり娘には幸せでいて欲しい。それが、結婚ていう形じゃなくても。ただね、宏海くんはどうなんだろうなって。私たちもだいぶお世話になっててね。ほら、アトリエが近いでしょう。だからよく来てくれるのよ。それこそ、カナコよりも」
それは、容易に想像がつく。誕生日のあの日だって、きっと彼はここに来たのだろう。あんなに近くで会ったんだから。
「電球を変えてくれたり。作りすぎたからって、色んなお料理をお裾分けしてくれたりね。本当に優しい子だから。あの子にも、幸せでいて欲しい。娘の気持ちばかり考えてもいけないなって、思うのよ」
「うん。何となく、分かるよ。じゃあ……」
出来たよ、と母さんの明るい声が聞こた。そして、何もなかったかのように、おばあちゃんは台所に消える。もっと気難しいと思っていたおじいちゃんは、やれやれという風に笑った。
「あぁ……えっと」
「中川さんのこと?」
「え? 宏海くんのこと、聞いてるの?」
「いや、何と言うか複雑なんだけどね。俺、こういう会社で働いててね。実は、中川さんの担当してるの」
祖父母に名刺を差し出す。当然の如く驚く二人に、ママを探していたから、と話し始める。数ヶ月前と同じように。担当になったのは、本当に偶然だということ。彼に悪印象は抱いていないこと。そこは丁寧に話したつもりだ。
「そう。カナコを探してくれてたのね」
「うん。ずっと探してた。それでね、偶然中川さんと母さんが一緒に暮らしてるって知って。正直、複雑だった。あぁ幸せなんだな。俺のことなんて忘れたんだろって。憎しみはあったけど、会う勇気はなくてさ。それがたまたま、俺の誕生日に母さんが小田原に行ってるって知って……確認してやろうって思ったんだ。恨み言の一つや二つ。ぶつけてやるつもりだったのにさ……結局、ママはママだったよ」
その言葉に尽きると思っていた。母はどこまでも、俺の母だった。当然それは嬉しくて、あれから俺の生活は徐々に血が通っていった気がする。おじいちゃんは何も言わないけれど、おばあちゃんはまた泣きそうだ。そういうところ、すごく母さんと似てる。やっぱり親子なんだな。だって俺も、また泣きそうなのをグッと堪えていたから。
「ねぇ。あの二人って結婚してないでしょう? 多分俺のことを気にしてるんだと思うの。正直言って、二人はどう思ってる?」
「……そうね。私は、やっぱり娘には幸せでいて欲しい。それが、結婚ていう形じゃなくても。ただね、宏海くんはどうなんだろうなって。私たちもだいぶお世話になっててね。ほら、アトリエが近いでしょう。だからよく来てくれるのよ。それこそ、カナコよりも」
それは、容易に想像がつく。誕生日のあの日だって、きっと彼はここに来たのだろう。あんなに近くで会ったんだから。
「電球を変えてくれたり。作りすぎたからって、色んなお料理をお裾分けしてくれたりね。本当に優しい子だから。あの子にも、幸せでいて欲しい。娘の気持ちばかり考えてもいけないなって、思うのよ」
「うん。何となく、分かるよ。じゃあ……」
出来たよ、と母さんの明るい声が聞こた。そして、何もなかったかのように、おばあちゃんは台所に消える。もっと気難しいと思っていたおじいちゃんは、やれやれという風に笑った。

