「母さん。いいんだよ。もう、いいの。俺のことは気にしないで。中川さん、言っちゃったんでしょう?」
「え?」
「うぅん。あのね。俺、知ってるの」
「えっ、えっと……何を」
「何をって……そうだな。中川さんが一生懸命、母さんのことを考えてくれたことも。腕時計、作ってたところも。全部」
「腕時計?」
「え? え? もらったんじゃないの?」

 昨夜の記憶を手繰り寄せる。宏海が私に差し出してきた木箱。あれのことだろうか。箱の大きさ的には、きっとそれだろうと思うが。私は貰ってはいない。

「どういうこと? その、何か言われたんじゃないの?」
「えっと……えっと」
「だから、俺のことは気にしなくていいって。言われたんだよね?」
「あ……えっと。は、はい」
「そうだよね。言ったんだよね。まぁそういう流れだとは思ってたんだ。だから池内さんを止めたの。中川さんは、もう少ししてから言うつもりみたいだったし」

 状況を上手く飲み込めないでいる私に、カナタが丁寧に説明してくれる。宏海の気持ちを聞いて、あれこれサポートをした、と。池内さんは昨日初めて聞いたから、自分も背を押したかったんだろう、と。

 あまりに淡々と話してくれているが、彼はそれをどう思っているのだろう。息子として。

「状況確認するね。母さんは言われたけど、腕時計は貰っていない」
「うん」
「何でだろう」
「それは、多分だけど……私がまず、ごめんなさいって言っちゃったからかなって」

 それが、一晩考えて出た答えだった。私がまず、ごめんなさい、と言ってしまったから。その後、続けたかった言葉も、発することすら許されなかった。つまりはその言葉が、全てのストッパーになってしまったのではないか、と思うのだけれど。