「池内さんのことだから、アトリエまで行って、インターホン押したでしょ」
「ん……あぁ。まぁ……そうね」
「だよなぁ。そうだと思ったんだよ。だから嫌だったのに」
「でも、カナタ。無下にするわけにいかないでしょう。ご厚意だもの、池内さんの」
「それはそうかも知れないけどさぁ。あの人。変なところに、やる気スイッチがあるんだよな。正義感が強いというか」
「あぁ……そんなタイプよね」
同調し合って、二人で溜息を吐いた。彼は想像できてしまった上司のことで。私は当然、その後のことで、だ。カナタに、気付かれてはいけない。何とか、キリッとしていないと。
「母さん、その……」
「ん? 何」
「中川さん、大丈夫だった?」
「ん、宏海? 大丈夫って何。普通に家の中、案内してくれたわよ」
「案内しただけ?」
「え? うん。あとは、コーヒー淹れてくれた」
「それだけ?」
「うん。それだけ、よ?」
身を乗り出して、あまりにしつこく問うてくるカナタに、冷や汗が出る。この子は何か知っている? ちょっと不安になった。
「母さん。嘘は吐かないでね」
「あ、うん」
「中川さん、何も言ってなかった?」
「何も……? 何も」
落ち着きなく目は泳ぎ、パチパチと瞬きを繰り返した。カナタは何を言っている? 手汗がひどいけれど、一ミリも動いてはいけない気がする。おしぼりにも手が伸ばせず、ただギュッと握り込んだ。すると、カナタが大きく溜息を吐く。
「ん……あぁ。まぁ……そうね」
「だよなぁ。そうだと思ったんだよ。だから嫌だったのに」
「でも、カナタ。無下にするわけにいかないでしょう。ご厚意だもの、池内さんの」
「それはそうかも知れないけどさぁ。あの人。変なところに、やる気スイッチがあるんだよな。正義感が強いというか」
「あぁ……そんなタイプよね」
同調し合って、二人で溜息を吐いた。彼は想像できてしまった上司のことで。私は当然、その後のことで、だ。カナタに、気付かれてはいけない。何とか、キリッとしていないと。
「母さん、その……」
「ん? 何」
「中川さん、大丈夫だった?」
「ん、宏海? 大丈夫って何。普通に家の中、案内してくれたわよ」
「案内しただけ?」
「え? うん。あとは、コーヒー淹れてくれた」
「それだけ?」
「うん。それだけ、よ?」
身を乗り出して、あまりにしつこく問うてくるカナタに、冷や汗が出る。この子は何か知っている? ちょっと不安になった。
「母さん。嘘は吐かないでね」
「あ、うん」
「中川さん、何も言ってなかった?」
「何も……? 何も」
落ち着きなく目は泳ぎ、パチパチと瞬きを繰り返した。カナタは何を言っている? 手汗がひどいけれど、一ミリも動いてはいけない気がする。おしぼりにも手が伸ばせず、ただギュッと握り込んだ。すると、カナタが大きく溜息を吐く。

