「よし、きっと大丈夫。食べようか。お皿、どれにしたらいい?」
アルミを開いて切り分けた玉子を、母が出す皿に乗せる。それをルンルンで食卓に運ぶ母を見て、こういう幸せもあったんだな、と思う。三人で割るには小さな玉子焼き。口にする前から、両親はとても嬉しそうに見えた。もっと幼い頃から何かしら作る努力をしていたら良かったか、と今更思う。そうすれば、もう少し出来るようになったかも知れない。いや、その程度で不器用さがどうにかなるわけでもないか。獣医になりたくて必死にオペの練習をしたような熱量を、料理に注げるとも思えないし。つまり私にすれば、これが精一杯なのである。
そんなことに意識を飛ばしていたら、父が手を伸ばす。ひどくドキドキする。が、私以上に緊張の面持ちで見つめる母が、その隣にあった。
「ど……どう?」
「あぁ、うん。ちょっとばかり薄味かもしれんが、旨いぞ。頑張ったな」
「う、うん。ありがとう」
「ほら、母さんもいただいてごらん」
父に褒められたのなんて、いつぶりか。あ、嬉しい。こんな年にもなってなお、親に褒められるのが嬉しいとは思わなかった。美味しいねぇ、と言う母が笑っている。私は鼻を啜り上げて、一切れ口に放った。美味しいね、また作るね。何とか笑みを乗せながら。
本当は、両親に作って、息子に作って、それから最後に宏海に作ってあげたかった。その時には、自分の気持ちをきちんと伝えよう。そう思っていたから。でも、宏海は今日、私の話を聞いてはくれなかった。時間が欲しい、という願いを言うことすら許してもらえなかった。アトリエから、ここまでの道。何度も言おうとした。けれどそれは全て、彼の雑談で上書きされ、何も言うことが出来なかったのだ。
これからの生活は、どうなるだろう。どちらかの好きな人が出来たら終わりにする。そう約束はしてあるが、肝心の宏海との関係が拗れてしまった。もしかすると、すぐに出せる結論は……あの家を出ること、か。最早、それだけなのかも知れない。
アルミを開いて切り分けた玉子を、母が出す皿に乗せる。それをルンルンで食卓に運ぶ母を見て、こういう幸せもあったんだな、と思う。三人で割るには小さな玉子焼き。口にする前から、両親はとても嬉しそうに見えた。もっと幼い頃から何かしら作る努力をしていたら良かったか、と今更思う。そうすれば、もう少し出来るようになったかも知れない。いや、その程度で不器用さがどうにかなるわけでもないか。獣医になりたくて必死にオペの練習をしたような熱量を、料理に注げるとも思えないし。つまり私にすれば、これが精一杯なのである。
そんなことに意識を飛ばしていたら、父が手を伸ばす。ひどくドキドキする。が、私以上に緊張の面持ちで見つめる母が、その隣にあった。
「ど……どう?」
「あぁ、うん。ちょっとばかり薄味かもしれんが、旨いぞ。頑張ったな」
「う、うん。ありがとう」
「ほら、母さんもいただいてごらん」
父に褒められたのなんて、いつぶりか。あ、嬉しい。こんな年にもなってなお、親に褒められるのが嬉しいとは思わなかった。美味しいねぇ、と言う母が笑っている。私は鼻を啜り上げて、一切れ口に放った。美味しいね、また作るね。何とか笑みを乗せながら。
本当は、両親に作って、息子に作って、それから最後に宏海に作ってあげたかった。その時には、自分の気持ちをきちんと伝えよう。そう思っていたから。でも、宏海は今日、私の話を聞いてはくれなかった。時間が欲しい、という願いを言うことすら許してもらえなかった。アトリエから、ここまでの道。何度も言おうとした。けれどそれは全て、彼の雑談で上書きされ、何も言うことが出来なかったのだ。
これからの生活は、どうなるだろう。どちらかの好きな人が出来たら終わりにする。そう約束はしてあるが、肝心の宏海との関係が拗れてしまった。もしかすると、すぐに出せる結論は……あの家を出ること、か。最早、それだけなのかも知れない。

