「宏海、あのな」
「まぁくんには分かんないでしょ」
「……そうだな。わかんねぇな。だとしたらよ？　カナコの気持ちは、宏海、お前にも分かんねぇんじゃねぇのか」

　そうかも知れないけど、と口をぎゅっと結んだ。子どもみたいだな、と思う。けれど、僕はそのままでいる。何も言い返すことが出来なかったからだ。どれだけムカついても、こんな風に真っ直ぐ意見を言ってくれる人は他にいない。それが分かっているから、彼を呼んだんだ。慰められたかったわけじゃ、きっとない。

「宏海。いいか？　確かに俺には、カナコの気持ちは分からねぇ。けどな、躊躇うことなく返答をした。だとしたら、その後にはっきりとした理由があったはずだぞ？」
「うん、そうだろうね。でもさ、ごめんなさいって言われたのは事実でしょ。まぁくんは、他に好きな人がいるって言われたらいいって思ってること？　そんなの無理だよ。そもそも今日言うつもりもなかったんだ。そんな心の準備、出来てるわけないじゃん。まぁくんの言うように、理由をきちんと聞かなかったのは良くなかったかも知れないよ？　でも。もう言われたことを受け止めるしかないんだよ」
「宏海……」

　まぁくんが、大きく溜息を吐いて、携帯を見つめる。それを見て、また腹が立った。今更彼女からの連絡を待って、何が変わるというんだ。拳をきつく握りしめ、終わりを見つけないといけなかったんだよ、と呟く。喧騒の居酒屋。聞こえるか分からないような、小さな声で。