「ごめんなさい、って言われたのは分かった。理由は聞いたのか。」
「理由……?」

 確かにカナちゃんは、あの後何かを言おうとした。けれど、それを止めたのは僕だ。聞いてしまって、受け止める自信がなかったから。他に好きな人がいて、とか、そんな話を聞きたくなかった。毎晩連絡を取っているその人とのことを、僕は聞きたくなかったんだ。腕時計を脇に避けて、今のは忘れて、と笑うのが精一杯で。それからすぐ、彼女を家に送り届けた。全く関係のない話ばかり、一人で喋り通して。その間、彼女は何も言わなかった。

「聞かなかったのか」
「……聞けなかったんだよ」

 唇を尖らせる。だって仕方ないじゃないか。僕はそんなに強くない。そんなこと、まぁくんはよく知ってるくせに。

「カナコにだって、考えや事情があると思うぞ。 それは、宏海も分かるだろ。アイツの話をちゃんと聞かないといけなかったんじゃねぇのか」
「……そうかも知れないね。でもさ、答えは変わらなかったと思うよ」
「そうじゃねぇと思うけどなぁ……」
「まぁくんが何を知ってるの。カナちゃんはまず、ごめんなさいって言った。それ以上に何を言うことがあるの」

 訳知り顔をする幼馴染に、ひどく腹が立った

 プロポーズを断ることが彼女の意思ならば、何を聞いたって変わらない。それなのに、まぁくんは何か言いたげで。それが余計に、僕の感情を逆撫でた。