「そういうのもいいね」
「宏海は、何かやってみたいことがあったの?」
「そうだなぁ。ありきたりだけど、ピザ窯を作りたい。今作ってもいいけれど、基本は僕一人だしね」
「ピザ窯かぁ。いいねぇ。ふふ、美味しそう。夢は膨らむねぇ。今までは何かやったりしなかったの? 庭の整備」
「あぁ。元々あった花壇とかは整理したりしたけど、それ以外は草取りするとかくらいかなぁ。仕事は中でやるだけだし。ここに住んでたわけでもなかったから」
ここを相続した時、僕は実家近くのアパートに住んでいた。本当はそこを引き払って、ここに越してくるつもりでいたんだ。そのために、まず整えたのは工房。それから少しずつ手を加え、住居部分はどうしようか、と考え始めたのが彼女に再会する少し前のこと。カナちゃんの提案を受けて、ここに住むことも考えたけれど、僕らの今の状態では部屋が足らなかった。それで、マンションを借りることにしたんだ。仕事場でしかなくなってしまったここは、なかなか時間が取れずに、庭なんかは特に放置され気味である。
「一軒家って、色々自分好みにするの、楽しそうだね」
「そう?」
「あぁ、うん。実家は両親のものだし。結婚してた頃は、小さなアパート暮らしだったからね。自分の家っていうのを持ったことがないの。賃貸ばかりで」
「そっかぁ」
「うん。だからね、楽しそうだなぁって。ちょっと羨ましい」
ぼーっと、静かにカップを手に取ったカナちゃんの唇を見ていた。じゃあ、ここで一緒に暮らそうか。僕がそう言ったのは、自然の流れだったと思う。
「ん、引っ越すってこと? あぁ……えっと。うぅん……それも、楽しそうだね」
「ねぇ、カナちゃん。僕とちゃんと結婚してくれませんか」
「え?」
立ち上がって、棚の上に置いていた箱を手にしてから、胸の音が尋常じゃないくらいに大きくて、これが現実だと気付く。今日、言うつもりはなかった。それも更に、今じゃなかった、かもしれない。でも、きっと伝わるはずだ。
コトッと小さな音を立てて、木製の箱がテーブルの上に乗る。スウッと息を吸い込んでから、それを彼女に差し出し、もう一度言った。僕と結婚してください、と。緊張と興奮で胸が張り裂けそうになりながら、顔を上げる。そうして見えたのは、驚いた顔のカナちゃん。泣くでもなく、笑うでもなく。ただただ、困惑している。それから僕に届いたのは、ごめんなさい、という小さな声だった。
「宏海は、何かやってみたいことがあったの?」
「そうだなぁ。ありきたりだけど、ピザ窯を作りたい。今作ってもいいけれど、基本は僕一人だしね」
「ピザ窯かぁ。いいねぇ。ふふ、美味しそう。夢は膨らむねぇ。今までは何かやったりしなかったの? 庭の整備」
「あぁ。元々あった花壇とかは整理したりしたけど、それ以外は草取りするとかくらいかなぁ。仕事は中でやるだけだし。ここに住んでたわけでもなかったから」
ここを相続した時、僕は実家近くのアパートに住んでいた。本当はそこを引き払って、ここに越してくるつもりでいたんだ。そのために、まず整えたのは工房。それから少しずつ手を加え、住居部分はどうしようか、と考え始めたのが彼女に再会する少し前のこと。カナちゃんの提案を受けて、ここに住むことも考えたけれど、僕らの今の状態では部屋が足らなかった。それで、マンションを借りることにしたんだ。仕事場でしかなくなってしまったここは、なかなか時間が取れずに、庭なんかは特に放置され気味である。
「一軒家って、色々自分好みにするの、楽しそうだね」
「そう?」
「あぁ、うん。実家は両親のものだし。結婚してた頃は、小さなアパート暮らしだったからね。自分の家っていうのを持ったことがないの。賃貸ばかりで」
「そっかぁ」
「うん。だからね、楽しそうだなぁって。ちょっと羨ましい」
ぼーっと、静かにカップを手に取ったカナちゃんの唇を見ていた。じゃあ、ここで一緒に暮らそうか。僕がそう言ったのは、自然の流れだったと思う。
「ん、引っ越すってこと? あぁ……えっと。うぅん……それも、楽しそうだね」
「ねぇ、カナちゃん。僕とちゃんと結婚してくれませんか」
「え?」
立ち上がって、棚の上に置いていた箱を手にしてから、胸の音が尋常じゃないくらいに大きくて、これが現実だと気付く。今日、言うつもりはなかった。それも更に、今じゃなかった、かもしれない。でも、きっと伝わるはずだ。
コトッと小さな音を立てて、木製の箱がテーブルの上に乗る。スウッと息を吸い込んでから、それを彼女に差し出し、もう一度言った。僕と結婚してください、と。緊張と興奮で胸が張り裂けそうになりながら、顔を上げる。そうして見えたのは、驚いた顔のカナちゃん。泣くでもなく、笑うでもなく。ただただ、困惑している。それから僕に届いたのは、ごめんなさい、という小さな声だった。

