「じゃあ、僕案内しますよ」
「いやいや、池内さん。流石に」
「あ、佐々木は次があるだろう? 大丈夫、俺はこれで直帰だから」
「いや、そういうことじゃなくて」
「ちょっと、こちゃこちゃっとしたところなんですよね。多分、アプリでは分かりにくいかも知れないから」
グイグイと、道案内をしたい圧が見える。その合間で、池内さんから幾度と俺に向けて投げられる目配せ。あぁこれは、プロポーズするにいい機会だとか思っている気がする。違うんだ、違うんだよ。今日は実家に帰るだけ。そうして明日は、息子を自分の両親に会わせるだけ、なんだ。ごめんなさい、池内さん。
「大丈夫ですよ、本当。ありがとうございます。お心遣いいただいて」
「いえいえ。気にしないでください。さぁ、こっちです。お、佐々木はお疲れな」
「いやいやいや……池内さん」
呆れた顔で彼を止めるが、一向に話を聞かない。繰り返される押し問答の中で、結局、一番先に音を上げたのは母だった。「では申し訳ないですが、お願いできますか」と願い出る。あぁ、と頭を抱えたが、母さんは何度も下手くそなウインクをして、大丈夫だと示してきた。
「喜んで。佐々木、気にするな。時間あるだろ。大丈夫か」
「多分、大丈夫ですけど」
「佐々木さん、お気になさらず。申し訳ないですけれど、池内さんにご案内いただきますから。是非、次のお仕事に行かれてください」
母さんのよそ行きの笑みが、強張っている。適当に案内させて、直前で別れれば平気だろうか。きっと母も、このやり取りをとっとと終わらせたいのだ。そう読み取った俺は、ちょっとすみません、と池内さんを引っ張った。
「いいですか。余計なことは、絶対に言ったりしたら駄目ですからね」
「分かってるよ、分かってる。ほら、俺、ここまで力になれなかったからな。上手くアシストするから、お前は心配すんな」
あぁそれが一番怖いんですよ……とは言えず。分かりました、と納得した顔を見せるしかなかった。池内さんは満足げだ。反して母さんは、不安げな顔を覗かせている。では、と頭を下げて、そこを後にするしかない俺は、後ろ髪引かれつつ改札を通り抜けた。振り向けない。大丈夫だろうか。とりあえず電車に乗る前に、メッセージだけは送っておいた。『悪い人じゃないんだ。止められなくてごめんね』と。
「いやいや、池内さん。流石に」
「あ、佐々木は次があるだろう? 大丈夫、俺はこれで直帰だから」
「いや、そういうことじゃなくて」
「ちょっと、こちゃこちゃっとしたところなんですよね。多分、アプリでは分かりにくいかも知れないから」
グイグイと、道案内をしたい圧が見える。その合間で、池内さんから幾度と俺に向けて投げられる目配せ。あぁこれは、プロポーズするにいい機会だとか思っている気がする。違うんだ、違うんだよ。今日は実家に帰るだけ。そうして明日は、息子を自分の両親に会わせるだけ、なんだ。ごめんなさい、池内さん。
「大丈夫ですよ、本当。ありがとうございます。お心遣いいただいて」
「いえいえ。気にしないでください。さぁ、こっちです。お、佐々木はお疲れな」
「いやいやいや……池内さん」
呆れた顔で彼を止めるが、一向に話を聞かない。繰り返される押し問答の中で、結局、一番先に音を上げたのは母だった。「では申し訳ないですが、お願いできますか」と願い出る。あぁ、と頭を抱えたが、母さんは何度も下手くそなウインクをして、大丈夫だと示してきた。
「喜んで。佐々木、気にするな。時間あるだろ。大丈夫か」
「多分、大丈夫ですけど」
「佐々木さん、お気になさらず。申し訳ないですけれど、池内さんにご案内いただきますから。是非、次のお仕事に行かれてください」
母さんのよそ行きの笑みが、強張っている。適当に案内させて、直前で別れれば平気だろうか。きっと母も、このやり取りをとっとと終わらせたいのだ。そう読み取った俺は、ちょっとすみません、と池内さんを引っ張った。
「いいですか。余計なことは、絶対に言ったりしたら駄目ですからね」
「分かってるよ、分かってる。ほら、俺、ここまで力になれなかったからな。上手くアシストするから、お前は心配すんな」
あぁそれが一番怖いんですよ……とは言えず。分かりました、と納得した顔を見せるしかなかった。池内さんは満足げだ。反して母さんは、不安げな顔を覗かせている。では、と頭を下げて、そこを後にするしかない俺は、後ろ髪引かれつつ改札を通り抜けた。振り向けない。大丈夫だろうか。とりあえず電車に乗る前に、メッセージだけは送っておいた。『悪い人じゃないんだ。止められなくてごめんね』と。

