このプロポーズは、母さんの希望になると思っている。俺という存在が、刃になるのか、融和剤になるのか。それは見えてこないけれど。いつか、息子です、と中川さんに名乗れる日が来るといいなと思う。
さっきの話では、アレは先日完成したようだ。何を書くか悩んでいた木製タグ。それも決まり、この年末年始のうちにプロポーズを、と言っていた。母さんは、今夜はおじいちゃんの家に泊まる。それから明日は、俺。そうなると、年越しの辺りになるのかな。母さんは、どんな反応をするんだろう。
「あれ?」
「どうしました?」
「いや、あれ……あ、やっぱりそうだ。あれ、中野さんじゃない?」
「え?」
駅に着いたところだった。池内さんが指差す方を見れば、確かにそこに母さんがいた。少し大きな荷物を持った彼女は、慣れた足取りで歩いていく。あぁ本当ですね。そう答えたが、池内さんには絶対に聞こえていない。気付けばもう、母さんの方へ歩き出しているのだ。俺は慌てて、その背中を追った。
「中野さん、こんばんは」
「え? あっ、池内さん……と佐々木さん。こんばんは。主人のところへ?」
「そうなんです。最近佐々木に任せっきりになってしまって、僕は来られてなかったんですけど。今日は年内最後ということで、ご挨拶に」
「そうでしたか。今年も主人がお世話になりました」
母さんがよそ行きの顔を整える。中川宏海の妻、としての体裁。何と言うか、親の恋愛話を聞くよりもずっと、微妙な気持ちになった。
「奥さんは、これからアトリエに?」
「あ、えっと」
「初めてですよね、確か」
「あぁそうですね。まだ行ったことがなかったので」
ただ実家に帰るだけ、と言えばいいものを、どうして躊躇ったんだ。ちょっと母さんを睨んだけど、完全に戸惑いの色が溢れている。あぁそうか。池内さんの純粋さに気圧され、適当に話を合わせているんだな。
さっきの話では、アレは先日完成したようだ。何を書くか悩んでいた木製タグ。それも決まり、この年末年始のうちにプロポーズを、と言っていた。母さんは、今夜はおじいちゃんの家に泊まる。それから明日は、俺。そうなると、年越しの辺りになるのかな。母さんは、どんな反応をするんだろう。
「あれ?」
「どうしました?」
「いや、あれ……あ、やっぱりそうだ。あれ、中野さんじゃない?」
「え?」
駅に着いたところだった。池内さんが指差す方を見れば、確かにそこに母さんがいた。少し大きな荷物を持った彼女は、慣れた足取りで歩いていく。あぁ本当ですね。そう答えたが、池内さんには絶対に聞こえていない。気付けばもう、母さんの方へ歩き出しているのだ。俺は慌てて、その背中を追った。
「中野さん、こんばんは」
「え? あっ、池内さん……と佐々木さん。こんばんは。主人のところへ?」
「そうなんです。最近佐々木に任せっきりになってしまって、僕は来られてなかったんですけど。今日は年内最後ということで、ご挨拶に」
「そうでしたか。今年も主人がお世話になりました」
母さんがよそ行きの顔を整える。中川宏海の妻、としての体裁。何と言うか、親の恋愛話を聞くよりもずっと、微妙な気持ちになった。
「奥さんは、これからアトリエに?」
「あ、えっと」
「初めてですよね、確か」
「あぁそうですね。まだ行ったことがなかったので」
ただ実家に帰るだけ、と言えばいいものを、どうして躊躇ったんだ。ちょっと母さんを睨んだけど、完全に戸惑いの色が溢れている。あぁそうか。池内さんの純粋さに気圧され、適当に話を合わせているんだな。

