「佐々木、あぁいうことは早く教えてよ」

 あぁいうこと、というのはプロポーズの件である。池内さんが別件が忙しくなって、最近ここに来られていなかった。俺も会社で少し会う程度で、なかなか話す時間もなかったのだ。まぁ時間があったとて、話題にするにはちょっと気が引けるが。

 でも今日、この件を知った彼を見て思ったのは、純粋に中川さんのサポートを本気でしたかったのだろうということ。新人の頃から担当してきた人だし。いつだって、中川さんに助けられたと言うし。きっと、自分の出来る限りのことをしてあげたかったのだ。

「いや……そのセンシティブなことですし。勝手に他言するのも申し訳なくて。けれど、出来る限りお力にはなったつもりです」
「そう? まぁ佐々木だからさ。ヘマはしてないと思うけどさぁ。あぁ、それにしても。プロポーズかぁ。やっぱりちゃんとしたかったんだな」
「ちゃんと、ですか」
「そう。中川さんは、あまり今のふわふわした生活、好んでなかったんだよ。奥さんの事情もあるだろうし、突っ込んで聞いたことはないんだけどさ。不満って言うか。そんな気持ちを持ってる感じだったんだよな。初めの頃」
「そうなんですね」

 中川さんは、今の関係が不満だったのか。初めから母さんのことが好きだったんかな。いや、そもそも一緒に暮らすのが嫌だったのかな。あれこれと、想像してみる。普通は、親の色恋なんて考えたくもないんだろうけれど、何十年と間が空いてしまった親子である俺は、特に抵抗もない。むしろこれからは、自分を大切にして、幸せになって欲しいと願っている。

 母さんと接するようになって、少しずつ問うている過去のこと。それを繋ぎ合わせてみると、自分が聞かされてきた事柄と大きく違うことがいくつもあった。どちらを信じるか。それは俺次第なのだろう。ただ、あの母親気取りの女を好きになれなかったからか。目の前で、苦しみを吐き出すように話す母を信じたいと思う。

 それから、俺は一つの結論に辿り着いていた。きっと全ては祖父母が仕組んだことだったのだろう、と。父は祖父母には意見が言えなかった。それに、あの人達ならばやりかねない。あくどいことをしていると聞いたって、驚かない自信があるほどだ。簡単に納得できてしまった時、俺は一人鼻で笑った。