「じゃあ、これで年内は終わりかな。今年も一年間、ありがとうございました。来年もよろしくお願いします」

 丁寧に頭を下げた中川さんに倣って、俺と池内さんも頭を下げた。「こちらこそ、お世話になりました。来年もよろしくお願いします」と。今日は年内最終日。俺はこの後もう一件打ち合わせがあるが、池内さんはこれで終い。多少浮かれている彼とちょっと緊張している俺。若干の温度差が、今日は一段と際立っている。

 明日、ついに祖父母に会いに行くことになった。あまり長引かせても仕方ないし、早めに行ってしまおう。母さんが言うことは最もだが、五歳児の俺までしか知らない祖父母だ。しかも、頻回に会っていたわけでもない。それが、急に大人になって目の前に現れることになる。もう二十年近く会っていない孫。とうに忘れてしまったんじゃないか。その不安が、今から小さく渦巻いていた。

「中川さん、頑張ってくださいね。何かあったら、すぐ飛んできますから」
「池内くん、ありがとう。でも池内くん、明日から海外旅行でしょ。お気持ちだけいただきます」
「あぁ……もっと早く言ってくれたら力になれたのに」
「そう? でも、佐々木くんがとっても力になってくれたからね。池内くん、いい後輩を持ったね」
「そうっすねぇ。佐々木が飲み込みも早くて有り難いです。じゃあ、健闘祈ってますよ」

 それでは、と二人また頭を下げて、彼のアトリエを後にする。時計を確認して、一先ず安堵。寄り道せず、乗り換えも間違えなければ、少し前に着けるだろう。