「お待たせしました。キーマカレーです」
「わぁ。やった。樹里ちゃん、おいしそう」
「あ、うん。そうだね」

 皿を置いて、カトラリーを置いて。彼がやる順番を思い描く。笑ったり、見たりしないけれど、気にはなるのだ。五十過ぎた幼馴染の恋が。

「斎藤さん。パッケージとか決めたんですか」
「アカリ、流石に早い。パッケージまで行くのはまだ先よ」
「あぁ、そうなんだ。私、部署が全然違うのでよく分かってなくて。すみません」
「いえいえ。僕もちっとも分かってないですよ。松村さんからの提案されたものを選んでるくらいで。意見を言うのは味だけです」
「まぁジュリちゃんは、そういうところは、ちゃんとしてるから。きっと大丈夫です。あぁでも、あの象を描いたらいい気がしますけどねぇ。ほら、ちょっとブサ可愛いっていうか。私も印象に残ってましたし」

 聞こえてきた声に、ブブッと吹き出してしまった。彼女たちが話しているブサ可愛いという象は、僕が描いたもの。カナちゃんもまぁくんも役に立たないから、当然のごとく採用された。おばちゃんは気に入ってくれたけれど、それを店の名を乗せた商品に使うのは気が引ける。アレは親友の店だから出せた物。この店の顔にするような物じゃない。

「どなたかが描かれたのなら、その方の許可を取れれば問題ないですよ」

 ジュリと呼ばれていた声が答える。これが松村さんだろう。とても落ち着いていて良い子そうだ。

「あ、ホント? 分かった。じゃあ……今度聞いて、みるか。でも、あの象そんなに良かった?」
「そうですね。ちょっとこう……印象強かったのは確かです。ガネーシャかと思ったけど、よく見たら普通の象でしたし。でも、あれなんですよね。そうすると、このお店のマスコットみたくなるので、ご両親にも相談された方がいいかもです」

 普通の象。まぁ確かに、そうだけど。そうなったのには、あの時の楽しいおしゃべりがあって……って、まぁそれはいいか。とりあえずは、松村さんの言う通り、おじちゃんとおばちゃんの意見は聞くべきだ。僕は別に何の権利も求めてないし、どうぞって感じだけれど。

 後ろの雑談とおじさんの仄かな恋心。僕はそのどこか純粋な思いに触れて、最後にはめるピースを決めた。Will you marry me? シンプルで、真っ直ぐに。彼女に届けよう。