「それでもさ、息子くんにとっては特別だったのよ。失敗してたとしても」
「まぁねぇ。私はご飯を作っていなかったし。お休みの日に頑張って作ろうと思っても、それが限界だったんだけど」
「当時のカナコなりの精一杯よね。旦那さんがお料理出来れば、そんなに必要性に駆られないというか」
「そう、そうなのよ。夫は料理もやりくりも上手かったから。私は細かい掃除とかそういうことしか出来なかった。カナタが見ていたのは、本当にブサイクな玉子焼きを作ってる背中しかないのかも」
「なるほどねぇ」
勝手に納得する暁子は、当時の私を想像しているのだろう。ふむふむ言いながら、さながら名探偵のようだ。ただ、それほど解明するようなこともないが。
「たださ? カナコ。宏海くんに理由って言った?」
「え? いや、まさか」
「そうよね。宏海くんは、どうしてカナコがそんなことを言い出したのか知らないのね。料理を毛嫌いする人間が、どうして玉子焼きを練習してるのか」
「そうね」
「でもさ、それって不味いんじゃない? 誰かのために、嫌いな料理を急に頑張りだした。それって、他の男とか想像しちゃうのが一番簡単でしょう」
「へ? 男?」
男? 男……?
「いやいや、それは流石に」
「そうなるって。例えばよ? どうしてだろうなって、一人で考えたとして。それを親でもなく、教室でもなく、宏海くんに教わってるんだよ? とりあえず、僕に作ってくれるわけじゃないんだな、って思うよね。まず」
「……思うか」
「思うよ。盛大に誤解してる気がするよ」
「それは嫌だけど……息子に、とは言えないし」
「……言えないか」
うぅん、と二人で頭を悩ませる。カナタに出来るだけ美味しい物を作ってあげたい。その気持ちだけで、私は宏海に頭を下げた。時間的に実家や匡のところに行くよりも、都合が良かったというのもある。暁子の言うように、それは私の都合。端から見てどんな風に見えるのかなんて考えもしなかったのだ。宏海に気持ちを伝えたいと思う今、下手な誤解はして欲しくない。けれど。
「まぁねぇ。私はご飯を作っていなかったし。お休みの日に頑張って作ろうと思っても、それが限界だったんだけど」
「当時のカナコなりの精一杯よね。旦那さんがお料理出来れば、そんなに必要性に駆られないというか」
「そう、そうなのよ。夫は料理もやりくりも上手かったから。私は細かい掃除とかそういうことしか出来なかった。カナタが見ていたのは、本当にブサイクな玉子焼きを作ってる背中しかないのかも」
「なるほどねぇ」
勝手に納得する暁子は、当時の私を想像しているのだろう。ふむふむ言いながら、さながら名探偵のようだ。ただ、それほど解明するようなこともないが。
「たださ? カナコ。宏海くんに理由って言った?」
「え? いや、まさか」
「そうよね。宏海くんは、どうしてカナコがそんなことを言い出したのか知らないのね。料理を毛嫌いする人間が、どうして玉子焼きを練習してるのか」
「そうね」
「でもさ、それって不味いんじゃない? 誰かのために、嫌いな料理を急に頑張りだした。それって、他の男とか想像しちゃうのが一番簡単でしょう」
「へ? 男?」
男? 男……?
「いやいや、それは流石に」
「そうなるって。例えばよ? どうしてだろうなって、一人で考えたとして。それを親でもなく、教室でもなく、宏海くんに教わってるんだよ? とりあえず、僕に作ってくれるわけじゃないんだな、って思うよね。まず」
「……思うか」
「思うよ。盛大に誤解してる気がするよ」
「それは嫌だけど……息子に、とは言えないし」
「……言えないか」
うぅん、と二人で頭を悩ませる。カナタに出来るだけ美味しい物を作ってあげたい。その気持ちだけで、私は宏海に頭を下げた。時間的に実家や匡のところに行くよりも、都合が良かったというのもある。暁子の言うように、それは私の都合。端から見てどんな風に見えるのかなんて考えもしなかったのだ。宏海に気持ちを伝えたいと思う今、下手な誤解はして欲しくない。けれど。

