「宏海。無理するな。何かあったら吐き出して行けよ」
「うん……ねぇ、まぁくん。カナちゃん、好きな人がいるんだと思うの」
「はぁ？　んなわけ……」
「だってね、頼まれたんだ。玉子焼きの作り方を教えて欲しいって」

　被せ気味に答えた。まぁくんはカナちゃんが料理が出来ないことを知っている。僕以上に。どのくらい出来ないのか、したくないのかを、彼はよく分かっているのだ。だから、今も目を丸めて「は、カナコが？」って、固まってしまった。

　そうだよね。分かるよ、まぁくん。僕もそうだったもの。


「そう。だからね、ここのところ毎晩練習してるの」
「嘘だろ？　調理実習だって、何とかやらずに逃げようとしたくらいだぞ、アイツ」
「うん。そう言ってたよね。だから、あぁきっと好きな人がいるんだなぁって……」

　そう思うしかないじゃない。掠れるような、小さな声になった。
　でも、まぁくんは、それを笑ったりしない。そんなことねぇよ、と確証などないことを懸命に言ってくれる。でもさ、それならばあの玉子焼きの練習は誰のためなの？　理由はそれ以外にもあるって、まぁくん言ってくれないかな。