「何かあったんか」
「うぅん。ちょっと疲れちゃってさ」
「ん、無理すんなよ。仕事もあって、カナコのことも考えて。色んなこと、同時進行してるんだろ」
「まぁねぇ。冬場はイベントも続くし、忙しいのは有り難いことです」

 ヘラヘラ笑う自分が嫌だった。まぁくんに話を聞いてもらおうと思って来たのに。言葉にしたら現実を認めることになる気がして、言うことが出来ない。やっぱり僕は臆病な男だ。ココアをごくんと飲み込んで、一緒に不安が消えないかと願ってみる。まぁ一つも小さくならないのだけれど。

「ところでさ。出来たらすぐに言うつもりなのか」
「あぁ……どうしようかなって思ってて。ほら、カナちゃん来月誕生日でしょう? その前には、と思ってはいるんだけど」
「誕生日か。いつだっけ。末の方だよな」
「違うよ。十一日だよ。もう、まぁくん、しっかりしてよ」
「そうだっけか」

 彼がはっきりと言い当てなくて、安心する。もしまぁくんのために、玉子焼きを練習しているのだとしたら? なんて考えが過って、不安は悪い方へ、悪い方へと進んでいく。落ち着け。違うだろう。匡に頼むか、と、あの時カナちゃんは言ったじゃないか。だから、相手は彼じゃない。それだけは、確かだ。