「俺……あの子のこと好きなんかな」
「は? 知らないわよ」
「まぁそうだよな。うん、そりゃそうだ」
「でも、好きなら好きでいいんじゃない? そりゃ、勝手に思い上がって、押し倒しちゃうようなら止めるけど。そういった気持ちを密かに持つのは、別に悪いことじゃないでしょう」

 急に熱を上げるような恋だったとしても、匡はそれを温めがちだ。自分から言って、関係が壊れることの方をひどく恐れる。百合の時だってそうだった。あれから何度か彼の恋の話を聞いたことがあるけれど、だいたいどれも同じようなもの。大人になったからと言って、それが劇的に変わるわけでもないだろう。

「カナコ。優しいんだな、お前」
「は、喧嘩売ってんの」
「んなわけねぇだろ。褒めてんだよ」
「そう? なら、よし。有り難く受け止めます」
「おぉ。その優しさ、一ミリでも宏海に向かないわけ?」
「何言ってんの。向けてるわよ。全力で」

 と、言葉にするのは、自分に対する言い訳だろう。今はカナタに全振りしている。宏海には申し訳ないこともあるけれど、まだ打ち明けるわけにはいかない。カナタもだいぶ私と接することに慣れては来たようだけれど、まだわだかまりが全て解けたわけではないのだ。

「カナコとしては、どう思ってんの。本気で」
「ん、宏海のこと? 大事に思ってますよ。こんな生活を引き受けてくれて、有り難いもの。匡だったら、喧嘩してすぐに解散したでしょ」
「まぁそうだけど。俺とお前は、このくらいの距離でいい」
「そうそう」
「でも、宏海は? あいつの気持ちとか、考えたことあんの」

 そんなのいつだって考えてる。だけど、どうせ宏海は匡のことが一番好き。それは変わっていないの。あまりにそれを実感するのが苦しくて、今はそれから目を逸らしがちでもある。何だよ、もう。腹立つな。匡にだけは、言われたくない。