「おばちゃん、良かったよ。まだ腕の骨折で済んで」
「な、ホント。悪かったな、わざわざ」

 休みだから、ランチついでに羽根へやって来た。おばちゃんとおじちゃんと話をして、ようやくコーヒーを一口。匡もいつも通り、呆れた顔をしていた。だが、そこに安堵を感じたのは黙っておこうと思う。私だって、おばちゃんの元気な顔を見て安心したくらいだ。息子ならば、もっとホッとしたに違いない。

 この件で、自分の中に浮き彫りになったのは、両親のことだった。彼らも年を取っていっている。恐らく、匡も宏海も、同じように親の今後を考えただろう。違いがあるとすれば、彼らには姉兄があって、私には誰も居ない。それが差異だろうか。一人娘である私が両親にしてあげられること。その一番は、カナタを会わせてあげることだ。焦ってはいけないが、その思いが日に日に強くなっている。

「兄貴も義姉さんも孫たちも、勢揃いでさ。やんの、やんの、うるせぇ、うるせぇ。母さんが骨折程度だったからさ、みんなすぐに安心しちゃってよ。そうしたら矛先は俺。いつ結婚するんだ、相手はいるのか、って」
「みんな、あんたを心配してるのよ。有り難いことじゃない。私なんて一人っ子だから、親が煩いだけよ」
「あぁ……それは余計に喧嘩になりそうだな」
「まぁね。だからあんまり帰ってないんだ」
「でもさ。カナコも、この件で心配になったんだろ」

 そうね、と小さく返した。詳細を口にはしなくとも、匡も考えたのだ。親の老いを感じ、自分に何が出来るのか。何をしてあげられるのか。それが驕りだとしても、息子として考えたはずだ。私なら、きっと考えてしまうもの。