「カナコよね? 誰かぁ、カナコ呼んで。あ、宏海くん。ここに座って待ってて。きっとすぐ来るから」
え? 聞こえてきた言葉を捕らえて、私は駆けた。そんなに広い病院ではない。待合室なんてすぐそこだ。なのに、何だか遠い。宏海が来たの? おばちゃんのこと? 色んな考えが湧き出てしまう。大丈夫、大丈夫。受付の子が呼びに来たのだろう。すぐに会ったが、無理に笑顔を見せるのがやっと。足を止められなかった。
「あぁ、カナコ。宏海くん」
ニコニコ嬉しそうな暁子の脇を抜けて、私は宏海の元へ駆ける。大丈夫、大丈夫。
「カナちゃん、ごめん。携帯、見られてないよなって思って」
「いい、いい。おばちゃんは?」
「うん、それが骨折だって」
「へ?」
「骨折」
「倒れたんじゃないの?」
「お風呂場で転んだとかで。おじちゃんがパニックになっちゃって、倒れたって言っちゃっただけみたい」
良かったぁ、と腰を抜かした私に、ごめん、と宏海が謝る。でもその顔に安堵があって、またホッとした。
おばちゃんは、私の中で『働く女の見本』だった。母は専業主婦だったし。自営業ではあったが、働きながら三人の子を育て上げた匡の母は、私の憧れだった。結局私は、そのレールから早々に降りてしまったけれど。まだまだ、彼女には長生きしてもらいたい。友人の母だけれど、とても大切な人だ。
え? 聞こえてきた言葉を捕らえて、私は駆けた。そんなに広い病院ではない。待合室なんてすぐそこだ。なのに、何だか遠い。宏海が来たの? おばちゃんのこと? 色んな考えが湧き出てしまう。大丈夫、大丈夫。受付の子が呼びに来たのだろう。すぐに会ったが、無理に笑顔を見せるのがやっと。足を止められなかった。
「あぁ、カナコ。宏海くん」
ニコニコ嬉しそうな暁子の脇を抜けて、私は宏海の元へ駆ける。大丈夫、大丈夫。
「カナちゃん、ごめん。携帯、見られてないよなって思って」
「いい、いい。おばちゃんは?」
「うん、それが骨折だって」
「へ?」
「骨折」
「倒れたんじゃないの?」
「お風呂場で転んだとかで。おじちゃんがパニックになっちゃって、倒れたって言っちゃっただけみたい」
良かったぁ、と腰を抜かした私に、ごめん、と宏海が謝る。でもその顔に安堵があって、またホッとした。
おばちゃんは、私の中で『働く女の見本』だった。母は専業主婦だったし。自営業ではあったが、働きながら三人の子を育て上げた匡の母は、私の憧れだった。結局私は、そのレールから早々に降りてしまったけれど。まだまだ、彼女には長生きしてもらいたい。友人の母だけれど、とても大切な人だ。

