「何か行き詰まってます？」

　12月に入って、何だか周りがソワソワし始めた感じのする休日。俺は、中川さんのアトリエを訪れた。仕事ではない。敵情視察と言えば仰々しいが、彼の動向が気になり、居ても立っても居られなかった。ただ、それだけだ。理由は簡単、単純で。母に幸せになって欲しいという完全なる私情である。母に幸せになって欲しいという完全なる私情である。

　中川さんは、それを知ったら怒るだろうか。

「行き詰まってはないんだけどね。うぅん……何と言うか。こんなことを君に話していいのか分からないんだけど……」

　淹れてもらったコーヒーに目をやって、視線を少しぼかす。どの立場で彼の背を押したらいいんだろう。罪悪感のような感情を抱えて、俺は静かに口を開く。

「無理に聞きません。けど、私が聞いても大丈夫な話ならば、何でも仰ってください」　

　曖昧な返答をするしかなかった。けれど、彼が何か不安に思っているのならば、解消したいと思っている。そして、母さんへのレールにそっと戻したかった。二人を繋ぐ、蝶番として。