『だって、カナコは宏海くんのこと好きじゃん?』

 そう言った暁子は、普通の顔をしていた。茶化している様子もなく、淡々と事実を告げただけ。そう見えた。だからこそ、心に残ってしまったのだ。しっかりと、貼り付けられてしまった。あぁ、どうしてくれるんだ。

 私が宏海を好き? いやいや、そんなわけはない。だって彼は、学生服を着ていた頃から、皆の可愛い弟。それに、宏海にはきちんと想っている人がいる。一緒に暮らしているとは言え、実らない彼の恋と、男はいらない私の思惑の上で成り立っているだけ。どこに、ときめく要素があるのか。一人、大きく首を横に振った。

「ん、どうした?」
「何でもないよ。ごめん、ごめん」
「ねぇカナちゃん。夜ご飯食べられそうだったらさ。食べて行かない? せっかく外で会ったし、たまには」
「いいよ。じゃあ、宏海の食べたいの食べよう。お姉さん奢るから」

 言われてみれば、宏海と顔を合わせるのは家の中だけだ。何度も言うが、私たちは夫婦ではない。だから、一緒に出かけたりもしないし、わざわざ外で待ち合わせて食事を摂るようなこともないのである。

「暑いから、とりあえず建物の中に入ろう。適当にウロウロしてさ。お腹が空いたら、何か食べようよ。どうせ同じ家に帰るんだから、時間は気にしなくていいんだもん」
「まぁ確かにそうだね。じゃあ、まずはアイス探そ」

 ほら、いつも通り。 
 ケラケラ笑って、ときめく要素なんかどこにもない。私に合わせた歩幅で、ゆっくり歩いた。何の気兼ねもない友人同士。宏海だってそう思っているに違いない。