「結構飲んだ?」
「あぁ……うん。どうにもね。自棄酒は良くないって分かってるのに、どうにもスッキリ出来なくて。宏海にまで迷惑かけて、本当にごめんね」
「僕は良いんだよ。ちょうど工房にいて、帰るところだったし。それに心配だったもん。飲み過ぎは止めたいところだけど、今日は仕方ないんじゃないかな」

 ね、と笑みを寄越した宏海。彼もまた、今年五十になる男である。未だこう形容するのは申し訳ないと思うが、いつ見てもその顔は可愛らしかった。

「カナちゃん。ちょっとお散歩し行こうか」
「あ、うん。いいよ。宏海はお腹空いてない?」
「うん。大丈夫。打ち合わせしながら軽くだけど、少し遅かったから。プラプラして、カフェでお茶しよっか。ほら、アイスとかあるんじゃないかな」
「アイスは食べたい」
「うん。カナちゃん好きだもんね。ミルクのアイス」
「あ……うん」

 当然のように、彼がそう言った。驚きと、嬉しさがふわりと湧く。好きなものをちゃんと知っていてくれる。宏海は、そういうことが出来る人だ。さり気なく、車道側を彼が歩く。紳士的だな。浮かんだのは、そんな平凡な感想だった。

 額の汗を拭う宏海。暑い夏の日差しが、キラキラと彼を照らしている。ふわふわした軽い髪。十五センチ差の身長。触れそうで、触れない手。それに気付いて、ひとり顔を赤らめる。いつもなら、全く気にならなかったのに。あぁもう。これは、暁子のせいだ。