その日、鈴城さんのお迎えの車が校門に到着して、私はまた送ってもらった。

鈴城さんは運転手の方に「これ捨てといて」って言って、ブレザーのポケットから出した香水の瓶を渡した。

「自分じゃ踏ん切りつかないから」って、泣きそうな目で私に微笑んだ。

うちの前まで送ってくれて、車を降りる時に、鈴城さんが「ヒントは遠足だよ」って言った。

それから一週間、私は何度も何度もそのヒントを考えた。

遠足ってどういうことだろう。

小学生から中学生の頃の遠足で行った場所、一緒にお弁当を食べた友達、風景とか沢山の記憶を辿った。

なんで「遠足」の中に、私と本郷先輩を繋ぐ過去があるんだろう。

その宿題の中で、何度も何度も、鈴城さんのことも思った。

私は大切な人の為にあんなに優しくて強くて、綺麗な心を持てる自信は無い。

苦しくないはずがない。
傷つかないはずがない。

なのに鈴城さんは一生懸命笑ってた…。
私のことも好きだって言ってくれた。

私が本郷先輩のことをちゃんと思い出して、もしかしたら本郷先輩に恋をして…それが本当に鈴城さんを安心させることになるの?

全然そんな風には思えなくて、
やっぱり苦しみの感情のほうが押し寄せてきて…。

それでも鈴城さんに与えられた「宿題」をやり遂げることが誠意だと思った。

鈴城さんだけじゃない。

私の人生を救ってくれた本郷先輩の為にも…。
今はそう思える。