わたしの身長は160センチ。
男とわたしと20センチくらい差がある。
呆然とするわたしをよそに。
男は、怪しい笑みを浮かべて。
下から見下すようにこう言った。
「お前の名前は?」
「……は?」
「名前は、って聞いてんだ」
「なんであんたに、教えなきゃいけないわけ?」
男はハァ、とため息。
わたしは心の中で、
『ため息を吐きたいのはこっちなんですけど!』
と苛立ちながら思った。
「さっき、俺の名前を教えろと言ってたのは
どこのどいつだ?」
「……っ!!?」
漆黒の瞳が、わたしを射貫くように見つめる。
ゾクリ、とした。
怖いとはまた違う。
人の心を見透かしてしまうんじゃないか。
ウソをついた人間に罰を与えるんじゃないか。
男の瞳は、冷酷に妖しげに。
そう思わせる力があるように感じる。
「……つ、ばさ」
「は? 聞こえんな、もう1回」
「……江藤 翼」
「そうか、翼……、いい名前だ」