君と二度目の恋に落ちたら

「…わかっていたから、わざわざ君のことを夢に出させないようにしていたのに…」

先ほど父は「夢を思うようにすることができた」と言っていたが、まさかそういうことだったのかと少し呆れた気持ちになった。父はやはりそういう人なのだ。私は少し口元が緩んでしまった。

「自分も、どうして平松さん…ゆりあさんの夢と自分の夢がリンクしているのかはわかりませんが…」

前野くんが私の名前を言い直して下の名前で呼ぶと父は牽制するかのような目で前野くんを見た。その意図を感じ取ってか、呼び方を迷いながら前野くんは言葉を続ける。

「えっと…お、お嬢さんに会いたいとずっと思っていました」

私はそのストレートな言葉を聞いて顔が赤くなってしまった。父は相変わらずな目で前野くんを見ている。

「できる限り、お嬢さんの病室に通っていましたが…動かず、表情の変わらない彼女を見ていて、ずっと苦しかった…。目を覚ましてほしくて、また笑いかけてほしくて…元気な姿のお嬢さんに会いたいと、ずっと思っていました…」

前野くんは私が入院している間、お見舞いに来てくれていたんだ…。ふと、目を覚ましていたと思われる時に見た前野くんの姿を思い出した。見慣れない白い空間は病室で、あの時も前野くんはお見舞いに来てくれていたのだと理解した。

だとすると…。

「…お母さん、泣いてた」

父は私の言葉を聞いて、悲痛そうな表情を浮かべた。

夢だと思っていた母の涙も、あれは現実だったんだ。なかなか目を覚まさない娘を見て、母は泣いていたのだ。

そして、父が亡くなってから私は母の涙を何度も見ていた。その母の涙を知っていたのに、私は海に落ちる時に「楽になれる」なんて考えてしまった。

「…お父さんも知ってたさ。だから、家族3人で夢の中で暮らせたらいいんじゃないかって思ったこともあった。お母さんには俺がいないとダメだと思っていたからな…」