君と二度目の恋に落ちたら

「現実世界でゆりあたちに触れることはできなかったが、ゆりあたちの夢に入り込むことはできていたんだ。どういう原理かはわからないが、夢を思うようにすることができて、お父さんはゆりあが幸せでいられる世界に留めておきたいと願った…」

だから私はずっと長い夢を見ていたのか…。

父は私の方を真っ直ぐ見ていたが、チラッと前野くんの方に視線を移した。

「君は…ゆりあが見ている単なる夢の一部…ではなさそうだね」

「…ずっと、自分が見ている夢だと思っていましたが…」

ここにいる前野くんは、私が作り出した夢の中の前野くんではない…?お父さんのように自分の意識がきちんとあるのだろうか。

「最初は何の問題もなかったんだよ。事故に遭う前の、平凡で穏やかな日常を送っていた…。だけど、ある日突然君が現れた…」

お父さんは前野くんを横目で見ていたかと思ったら、急にそっぽを向いて、少しの間黙っていた。

私は父が急に黙るので、少し心配になって声を掛けようとしたが、ふてくされたような顔を私と前野くんに見せてきた。あっけにとられているとまた父が話し始める。

「俺が生きていた頃、ゆりあの様子がなんだかおかしかったのは気づいてたさ!洗面台にいつものよりお高そうなヘアオイルとか並びだすしさあ!」

父の話している内容でさらに私はあっけにとられる。何を言い出すんだ…。

「さえちゃん…お母さんも『お年頃ね』なんて、なんか勘づいたようなこと言い出すし…!」

父はポロッと母のことを名前で呼んでしまったが、普段から私に対してたまにポロッと母のことを名前で呼ぶことがあった。沙江子なので『さえちゃん』と呼んでいるのだ。

私はすべてを思い出したことで、今いるこの夢の中のことへの理解が及んでいない部分があったが、目の前にいるこの人に紛れもなく父の意識が存在していることは強く理解した。

前野くんも何と言っていいのか迷っている様子だった。