君と二度目の恋に落ちたら

「たまたまゆりあが落ちるところを見ていた人たちがいて、その人たちがいたからゆりあは早くに救助されて命は助かったが、俺は目の前にいながら何もできなかった自分を恨んだよ。この先、何があっても自分はゆりあのことも、お母さんのことも助けることができないんだ…」

私は父にどんな言葉を掛ければよいのかわからなかった。ずっとそばにいてくれたこと、助けようとしてくれたこと、全部が嬉しかったがどうやって言葉に表したらよいのだろうか。

私が言葉を出せずにいたが、父は話を続けた。

「だけど、ゆりあが落ちていく姿を見ていて気が付いたんだ。ゆりあは一瞬だけ、安心したような顔をした気がしたんだ…」

その言葉に私はドキリとした。黙って聞いていた前野くんもピクッと体を反応させていた。

全てを思い出した今、あの時、海に落ちていく瞬間に自分が一瞬考えてしまったことも思い出せてしまう。

「それを見て、ゆりあは現実から逃げられることに安心したんじゃないかって思ったんだよ…」

それは図星だった。

そう、私はあの時体のバランスを崩して焦ったが、完全に落ちてしまうとわかってから「楽になりたい」って思ってしまったんだ。

世の中が綺麗なことばかりでないことは知っていた。だけど、お父さんが事故に遭うまではそれを自分事と思えるほどはわかっていなかったのだ。

保身に走る汚い大人を目の当たりにして、ようやく私は世の中の不条理さを身に染みて感じた。

私はそれを受け入れて生きていく強さを持ち合わせていなかったのだ。だからあの時、ホッとした気持ちもあった。

「…だから、お父さんはゆりあを夢の世界に閉じ込めることにしたんだ」

「え…?」

父の言っていることを一瞬理解することができなかった。