「家族に嫌われているって、一体、どういうことなんだ?」
あり得ないとばかりに、グレックは言葉に憤りを迸らせつつそう言った。
――家族が、ましてや親が子供を嫌うだなんて、そんな事あってはいけない。
暗にそう訴えるグレックに。
アキは少し戸惑いながらも、いつもの調子でこう答えた。
「どうって言われても。俺の顔も見たくないってぐらい嫌いだっていうんだから、もう、しょうがないよね?」
そう言って、カラカラ笑うアキを唖然とした顔で見つめると、グレックは、眉を顰めてこう言う。
「しょうがないって、そこ笑う所か?」
納得いかない、とばかりに口をへの字に曲げるグレック。
そんなグレックを「まあまあ」と宥めると、アキは大袈裟に足の太ももをさすり、チロっと舌を見せるとこう言った。
「ねぇ、それよりそろそろ席に座らない? 俺、ちょっと足が疲れてきちゃったかも」
※ ※ ※
「そういえば、グレッグはどうして王都へ?」
皆が席に着くと、自分から話題を反らす為だろうか。
唐突に、アキはグレックに話題を振ってそう言った。
その問いに乗じて、ミリアもグレックに気になっていたことを尋ねてこう言った。
「やっぱり、くじ引きで当たっちゃったとかですか」
そんなミリアの同情に富んだ質問を苦笑しながら否定すると。
グレックは、至極真面目な顔でこう言った。
「俺は、俺の意志で王都に行くと決めたんだ。王都で騎士になる為にな」
「騎士、ですか」
ミリアも王都には騎士という人たちがいることは知っていたが、何をする人たちなのかはあまり良く分かってはいない。
そんなミリアの心の声を読んだかのように、アキがこうグレッグに問いかける。
「騎士って、命がけで猛獣から国民を守るっていう、あの騎士だよね?」
「猛獣……?」
(猛獣って、確か怖いもの……だったよね)
両の手を卓上で握り、体を硬直させながら不安そうにグレッグを見つめるミリアに。
アキは、ミリアを少し安心させるようにこう言った。
「王都にはさ、猛獣って言って、野生の熊とか狼とか、そういう獰猛な生き物がたくさん居るんだ。それは、時々街の中に侵入してきたりして、人間や家畜を襲ったり家や街を壊したりしていくんだよ。で、それを懲らしめるのが、王国の騎士たちって訳」
「熊に狼……」
学校の図書館にあった本の中に、そんな猛獣たちが出ていたような気もする。
でも、そういう本は大抵、すごく怖い内容だったような気がするが――。
「大丈夫、大丈夫。王国に三騎士団がある限り、俺たちに何か起きることは無いって」
そう言って、ミリアを安心させようと苦心するアキを後押しするように。
グレックは、力強い口調でこう言い切った。
「ああ、そうだとも。騎士たちは、心技体に優れた者たちから成る王国最強の一団だと聞く。彼らは強い。騎士団には、剣、斧、銃の三つが存在するが、その中でも、俺は剣を扱う剣士団の騎士を目指してる」
そう言って、不敵に笑うグレックに。
ミリアは、おずおずと尋ねてこう言った。
「グレックさんは、なんでそんな危ない仕事をしたいだなんて思ったんですか」
ミリアの少し失礼とも取れる質問に、グレッグは気を悪くする様子も無く答えて言った。
「俺は、俺の祖父が編み出した剣術が、王都でも通用するのか、それを試してみたいんだ」
「へぇー、剣術を試しに、ねぇ。なんか、物語にでもなりそうな話じゃない?」
やっぱり男の子なのだろう。
アキが、そう言って楽しそうに話に乗っていく。
「グレックは騎士になたい、ね。で、話変わるけど、エマは?」
突然話を振られたエマは、ちょっと戸惑ったものの、ひとつ咳ばらいをすると、ため息交じりに一言、こう言った。
「私は、逃げてるの」
その言葉に。
ミリアとグレックは目を丸くしてエマをまじまじと見つめた。
「逃げてるって、何からですか」
少し顔を青くしながら心配そうに尋ねるミリアに。
エマは、居心地悪そうに椅子に座り直すと、憮然とした表情でこう言った。
「村長の息子」
(村長って、村の一番偉い人で、その人の息子さん? それって玉の輿なんじゃ……)
「今、玉の輿だって思ったでしょ? でも、それは大違いよ」
吐き捨てるようにそう言うと、エマは思い出したくも無いといわんばかりに、憎々しげにこう続けた。
「村長の息子……って言っても、普段何してるか全く分からない、親の財をひたすら食いつぶしてる不気味なストーカー男なの」
不気味なストーカー――それは嫌だ、と、ミリアは身震いする。
しかも、親の財を食いつぶしていて、普段何してるかも分からないなんて、怖いにも程がある。
(でも、ストーカー男なら、後をつけて王都までやって来たりするんじゃ……)
そんな心配をしながら、不安そうにエマを見つめるミリアを、思いっきりあざ笑うかのように。
アキは、にやにやとひとしきり笑うと、得意げな顔でこう言った。
「で、そいつと無理やり結婚させられそうになったエマは、殴っちゃったんだよねー。村長の息子のこと」
「え?」
なんと表現したら良いのだろう。
怒ることも笑うこともできず、ミリアは思わずエマを二度見してしまう。
「それは……」
グレックも似たようなもので、余りの突飛さに口元を片手で覆っている。
と、そんなミリアとグレックに更なる追い打ちをかけるかのように、アキは勿体ぶることなく、どストレートにこう言った。
「しかも、息子の自慢の鼻をへし折って、全治一か月のけがを負わせちゃってさぁー」
「全治一か月って、それは……酷いな」
口元に片手を当てたまま、グレックが困惑したようにそう呟く。
か弱い女性が、一体どうしたら大の男に全治一か月の傷を負わせられるのだろうか、とか考えているのかもしれない。
と、そんなグレックの懐疑心に満ちた視線もものともせず、エマは話を締め括るようにこう言った。
「それが村長の逆鱗に触れちゃって……それであたしは、今ここにいるって訳」
村長の、得体の知れない不気味な息子の自慢の鼻をへし折り、しかも、鼻を折られた息子は全治一ヶ月の重症。
一体、何処をどうしたらとそうなるのかと問わざるを得ない話に。
ミリアもグレックも、色んな意味で驚かざるを得ないのであった。
あり得ないとばかりに、グレックは言葉に憤りを迸らせつつそう言った。
――家族が、ましてや親が子供を嫌うだなんて、そんな事あってはいけない。
暗にそう訴えるグレックに。
アキは少し戸惑いながらも、いつもの調子でこう答えた。
「どうって言われても。俺の顔も見たくないってぐらい嫌いだっていうんだから、もう、しょうがないよね?」
そう言って、カラカラ笑うアキを唖然とした顔で見つめると、グレックは、眉を顰めてこう言う。
「しょうがないって、そこ笑う所か?」
納得いかない、とばかりに口をへの字に曲げるグレック。
そんなグレックを「まあまあ」と宥めると、アキは大袈裟に足の太ももをさすり、チロっと舌を見せるとこう言った。
「ねぇ、それよりそろそろ席に座らない? 俺、ちょっと足が疲れてきちゃったかも」
※ ※ ※
「そういえば、グレッグはどうして王都へ?」
皆が席に着くと、自分から話題を反らす為だろうか。
唐突に、アキはグレックに話題を振ってそう言った。
その問いに乗じて、ミリアもグレックに気になっていたことを尋ねてこう言った。
「やっぱり、くじ引きで当たっちゃったとかですか」
そんなミリアの同情に富んだ質問を苦笑しながら否定すると。
グレックは、至極真面目な顔でこう言った。
「俺は、俺の意志で王都に行くと決めたんだ。王都で騎士になる為にな」
「騎士、ですか」
ミリアも王都には騎士という人たちがいることは知っていたが、何をする人たちなのかはあまり良く分かってはいない。
そんなミリアの心の声を読んだかのように、アキがこうグレッグに問いかける。
「騎士って、命がけで猛獣から国民を守るっていう、あの騎士だよね?」
「猛獣……?」
(猛獣って、確か怖いもの……だったよね)
両の手を卓上で握り、体を硬直させながら不安そうにグレッグを見つめるミリアに。
アキは、ミリアを少し安心させるようにこう言った。
「王都にはさ、猛獣って言って、野生の熊とか狼とか、そういう獰猛な生き物がたくさん居るんだ。それは、時々街の中に侵入してきたりして、人間や家畜を襲ったり家や街を壊したりしていくんだよ。で、それを懲らしめるのが、王国の騎士たちって訳」
「熊に狼……」
学校の図書館にあった本の中に、そんな猛獣たちが出ていたような気もする。
でも、そういう本は大抵、すごく怖い内容だったような気がするが――。
「大丈夫、大丈夫。王国に三騎士団がある限り、俺たちに何か起きることは無いって」
そう言って、ミリアを安心させようと苦心するアキを後押しするように。
グレックは、力強い口調でこう言い切った。
「ああ、そうだとも。騎士たちは、心技体に優れた者たちから成る王国最強の一団だと聞く。彼らは強い。騎士団には、剣、斧、銃の三つが存在するが、その中でも、俺は剣を扱う剣士団の騎士を目指してる」
そう言って、不敵に笑うグレックに。
ミリアは、おずおずと尋ねてこう言った。
「グレックさんは、なんでそんな危ない仕事をしたいだなんて思ったんですか」
ミリアの少し失礼とも取れる質問に、グレッグは気を悪くする様子も無く答えて言った。
「俺は、俺の祖父が編み出した剣術が、王都でも通用するのか、それを試してみたいんだ」
「へぇー、剣術を試しに、ねぇ。なんか、物語にでもなりそうな話じゃない?」
やっぱり男の子なのだろう。
アキが、そう言って楽しそうに話に乗っていく。
「グレックは騎士になたい、ね。で、話変わるけど、エマは?」
突然話を振られたエマは、ちょっと戸惑ったものの、ひとつ咳ばらいをすると、ため息交じりに一言、こう言った。
「私は、逃げてるの」
その言葉に。
ミリアとグレックは目を丸くしてエマをまじまじと見つめた。
「逃げてるって、何からですか」
少し顔を青くしながら心配そうに尋ねるミリアに。
エマは、居心地悪そうに椅子に座り直すと、憮然とした表情でこう言った。
「村長の息子」
(村長って、村の一番偉い人で、その人の息子さん? それって玉の輿なんじゃ……)
「今、玉の輿だって思ったでしょ? でも、それは大違いよ」
吐き捨てるようにそう言うと、エマは思い出したくも無いといわんばかりに、憎々しげにこう続けた。
「村長の息子……って言っても、普段何してるか全く分からない、親の財をひたすら食いつぶしてる不気味なストーカー男なの」
不気味なストーカー――それは嫌だ、と、ミリアは身震いする。
しかも、親の財を食いつぶしていて、普段何してるかも分からないなんて、怖いにも程がある。
(でも、ストーカー男なら、後をつけて王都までやって来たりするんじゃ……)
そんな心配をしながら、不安そうにエマを見つめるミリアを、思いっきりあざ笑うかのように。
アキは、にやにやとひとしきり笑うと、得意げな顔でこう言った。
「で、そいつと無理やり結婚させられそうになったエマは、殴っちゃったんだよねー。村長の息子のこと」
「え?」
なんと表現したら良いのだろう。
怒ることも笑うこともできず、ミリアは思わずエマを二度見してしまう。
「それは……」
グレックも似たようなもので、余りの突飛さに口元を片手で覆っている。
と、そんなミリアとグレックに更なる追い打ちをかけるかのように、アキは勿体ぶることなく、どストレートにこう言った。
「しかも、息子の自慢の鼻をへし折って、全治一か月のけがを負わせちゃってさぁー」
「全治一か月って、それは……酷いな」
口元に片手を当てたまま、グレックが困惑したようにそう呟く。
か弱い女性が、一体どうしたら大の男に全治一か月の傷を負わせられるのだろうか、とか考えているのかもしれない。
と、そんなグレックの懐疑心に満ちた視線もものともせず、エマは話を締め括るようにこう言った。
「それが村長の逆鱗に触れちゃって……それであたしは、今ここにいるって訳」
村長の、得体の知れない不気味な息子の自慢の鼻をへし折り、しかも、鼻を折られた息子は全治一ヶ月の重症。
一体、何処をどうしたらとそうなるのかと問わざるを得ない話に。
ミリアもグレックも、色んな意味で驚かざるを得ないのであった。