「シャインさんは、ガイさんとは、お友達だったんですか?」

 チーズの大皿が乗ったテーブルを前に、ミリアはふとそう質問した。
 
(アキさんのお兄さんのことを良く知ってるみたいだし、きっと何か繋がりがあるよね)

 そう単純に考えた、ミリアの自然な問い掛けに。 
 シャインは軽く頷くと、チーズを口に運びつつこう言った。

「アイザック繋がりでね。アイザックは、時々任務で一緒になることがあったみたいで。その縁で、時々一緒に飲んだりしていたよ」

 そう言って、ブランデーを一口飲むシャイン。
 アキは、そんなガイの知り合いだというシャインに、躊躇いがちに尋ねてこう言った。

「あの……」
「うん?」
「兄は、絵を勉強しに王都に来たはずなんです。それなのに、どうして騎士なんかに……」

 思い迷いつつ、それでも意を決してそう質問するアキに。
 シャインは顎に軽く手を当てると、申し訳なさそうにこう言った。

「どうして、か……僕も、良くは分からないんだ。ただ、『絵を描くことよりも前に、騎士になって、どうしてもしなきゃいけないことがある』って、そう言っていたよ」
「しなきゃいけないこと……」

 そう視線を落とし、呟くアキに。
 ミリアは首を捻ると、顎に手を添えてこう言った。

「それって、何でしょうか」

 ミリアの問いを受け、シャインは遠い記憶を手繰り寄せながらこう言った。

「確か、その為にはかなりの大金が要るって、そんなことも言ってた気がするよ」
「大金、ですか」
「猛獣を一匹仕留める毎に、金一封が出るらしいんだけど。彼は相棒と協力して良く貰っていたみたいだね」

 シャインはそう言うと、またブランデーを一口飲み下す。

「猛獣を仕留めるって、そう簡単じゃないですよね。それを良く仕留めるって……」

 そう言って、ガイの武術の腕に興味を示すグレックに。
 シャインは、ウェイターにもう一杯ブランデーを追加注文しつつこう言った。

「ああ。ガイは、剣士団の若手のホープとして期待されていたから、かなりの腕があったんだろう。相棒って人も、ガイの話じゃ、それなりに経験を積んだ人だみたいだったし」

 そう言って、注文したサラダをウェイトレスから受け取ると。
 シャインはそれを人数分、器用に分け始める。

 そんなシャインの手慣れた手つきを見ながら。
 アキは、何かを考えあぐねているのか、ぼんやりとこう言った。

「そう、なんですね」

 そんな、ある意味放心状態のアキに。
 シャインは何となく尋ねてこう言った。

「お兄さんのこと、気になるかい?」
「……はい」
「多分、アイザックなら、その辺のところは僕なんかより良く知っているとは思うんだけど……うーん、どうかな」

 その妙な言い回しに疑問に感じたのだろう。
 グレックは、そんなシャインの曖昧な物の言い方に差し挟むようにこう言った。

「どう、とは……?」

 その問いに、シャインは届いたブランデーを美味そうに一口飲むと、真面目な顔でこう言った。

「ガイの死に関しては、色々と謎になっていてね。騎士団の機密事項なのか、アイザックの口も堅い。だから、影では色んなことが囁かれていてね」
「それって、どういう……」

 ミリアの素直な合いの手に頷くと。
 シャインは、皮肉な笑みを浮かべながら淡々とこう言う。

「例えば、金欲しさに一人で森に入って猛獣に殺された、とか。自分の才能に溺れて見栄を張ったばかりに命を失った、とかね」

 そう言うと、シャインはグラスに入った琥珀色のブランデーをじっと眺め、それを面白くなさそうに呷るのであった。