「そうか、君があのアキ君なのか。君のことは、良くガイから話を聞いていたよ」
「そう、ですか……」

 島でのネガティブな出来事を思い出したのだろうか。
 アキはそう言って肩を落とすと、ふつと押し黙った。

 と、そんな意気消沈のアキに。
 シャインはブランデーを一口飲み下すと、軽く笑みを浮かべつつこう言った。

「ガイは、良く言ってたよ。君はかわいい自慢の弟だって。飲み会がある度に、うるさいぐらい君の自慢話をしていたから、君とは初対面だけど、そんな感じがしなくてね。もし、僕の話し方が馴れ馴れし過ぎて気に障ったら、ごめんね」
「いえ。でも、兄がそんなことを話してたなんて……」

 そう言って、口元を片手で覆い、視線を斜め下に落とすアキに。
 シャインはふと笑みを浮かべると頬杖をついてこう言った。

「意外かい?」

 その問いに、アキはシャインの(みどり)の瞳を見つめると、また視線を斜め下に落としてこう言った。

「はい。絵の勉強をするって言って、勝手に独りで王都へ行ってしまった人ですから。だから、てっきり兄の頭の中は、絵のことで一杯なんだって、俺はそう……」

 そう言って、言葉を詰まらせ押し黙るアキに。
 シャインはため息をひとつ吐くとこう言った。

「確かに。君の立場なら、兄さんを恨みたくもなるだろうね。でも、ガイの頭の中は、いつも君のことで一杯だったよ。ある時なんか、『アキが、村の剣術大会で優勝したんだ!』って言って、凄く喜んでいたしね」
「……え、なんで大会のこと……。兄は、もうその時には王都に居たはずなのに」

 アキは、眼を大きく見開くと、困惑気味にそう言った。
 そんな、驚きを隠せないアキを前に。
 シャインは、ブランデーを一口飲み下すと、微笑しながらこう言う。

「どうやら、村から来た貿易船の船員から話を聞いたらしくてね。彼は、貿易船が村から来るたびに、色々と君のことを聞いて回っていたみたいだよ」

 そんなシャインの話を聞いていたエマは、しみじみとした口調でこう言った。

「ガイさん、王都に行ってもあんたのこと、余程気がかりだったのね。その気持ち、分からなくはないけど」

 そんなエマの言葉など耳に入っていないというように。
 アキは、魂の抜けたような顔をすると、目を伏せたままこう言った。

「そう、ですか」

 そんな放心状態のアキを前に。
 シャインはアキに寄り添うような、優しい口調でこう言った。

「ガイは、いつも心配していたよ。君のこと」

 その言葉に、アキはすんと鼻を啜ると、肩肘を突き、フッと横を向いた。

 と、そんなアキを心底憐れむように見遣ると。
 シャインは淀んだ空気を一新するように手を叩き、にこやかに微笑んでこう言った。

「さ、湿っぽい話はこのぐらいにして。みんなお腹がすいてきたんじゃないかな? 店も片付いたみたいだし。一緒に食事でもどうだい? もちろん、僕のおごりでね」

 そう言うと、シャインは立ち尽くす男たちに向かって、席に座るよう促すのだった。