酒場の重たい扉がゆっくりと閉まり、エマは一呼吸吐くと、表情を曇らせこう呟いた。

「行っちゃった、わね」
「行っちゃいましたね」

 ミリアも、酒場の閉じた扉を不安そうに見遣る。

 と、そんな、憂い気な二人を前に。

 シャインは窓の外を冷静に見つめながらこう言った。

「今日の夜は、騎士団は総出で王都内を警備するらしいから、騎士は皆、忙しいみたいだね」

 そう言って、手にしていた酒の入ったグラスを一口飲むと、活気が戻り始めた店内に視線を戻す。
 そんなシャインに、エマは何気なく尋ねてこう言った。

「シャインさんは、アイザックさんとはどういった関係なんです? 見た限りでは、騎士って訳ではなさそうですけど」

 そんなエマの、ある種、失礼とも取れる物言いにも、特に過剰反応することもなく。
 シャインは、一人、可笑しそうに笑うと、また一口、酒を飲み下してこう言った。

「……確かに。僕が騎士だなんて言ったら、姉は大笑いだろうね。自慢じゃないけど、僕は大の付くほどの運動音痴だから」

 そう言って、首を竦めるシャインに。
 ミリアは素直に驚いた顔をしてこう言った。

「そうなんですか? 全然、そうは見えませんけど……」

 そう言って、シャインを上から下にと何度も見つめるミリアに。
 シャインは苦笑い気味にこう言った。

「外見じゃ運動音痴とか、そういうのは判断出来ないないからね。その代わり、僕には酒に耐性があるみたいで。斧士(ふし)のアイザックにも、飲み比べじゃ未だに負けたことは無い」
「あら、気が合いそうだわ」

 一回の酒宴でワインボトルを数本軽く飲み干すエマが、興味津々といった体でそう相槌を打つ。
 そんなエマに、グラスを掲げ、不敵な笑みを浮かべて見せると、シャインはふと、思いついたというようにこう言った。

「そうだ。お酒だけ……ってのも悪くないけど、店内もだいぶ片付いたみたいだし。何か食べようか」

 そう言って、奥のテーブルにの方へ歩きだすシャインに。
 エマが、慌てた様にこう言った。

「ちょっと、それは……」

 そう言って、ワイングラスを持ったまま、遠慮気味にその場に留まるエマに。
 シャインは、エマを安心させるようにこう言った。

「じゃあ、言い方を変えようか。空きっ腹に酒は胃に良くないから、何か食べた方がいい。心配しなくていいよ。ここは僕のおごりだから」

 そう言って、軽い足取りで店内の最奥にある六人掛けの席に着くと。
 シャインは、困ったように立ち竦むエマとミリアを手招きで呼ぶのであった。