赤い夕陽に照らされて、キラキラと光り輝くロケット。
 そんな美しいロケットを、アキは、汚いものでも触るかのようにぶらぶらとぶら下げながらこう言った。

「という訳で。こんな悪趣味なロケット、もう捨てちゃおう。君が出来ないって言うなら、俺が代わりに捨ててあげてもいいけど?」

 そう言って、大きくかぶりを振ると、ロケットを海へ放り投げようとするアキ。

「待ってください!」

 そんなアキの手を、両手で必死に抑えつけると、ミリアはアキの眼を見てこう懇願する。

「そのロケット、私に返してください。お願いします……」

 アキは、ミリアの真摯に訴えかけるその青く澄んだ瞳の、その奥を覗き込むようにじっと見つめると、根負けしたようにこう言った。

「分かった。君に返すよ。磨くなり、大事にしまっておくなり、好きにすればいいさ」

 投げやりにそう言うと、アキはミリアの片手を掴むとその掌にロケットを乗せた。

 ミリアは、そのロケットをゆっくりと掌に包み込むと、甲板を力強く踏みしめ、そっと瞳を閉じる。
 そして、またゆっくり目を開けると、船尾の先、その更に先の赤く染まった地平の果てを見つめてこう言った。

「……アキさん。これから私がすることの見届け人になって下さい」

 そう言うなり、ミリアはロケットを手に持ったまま大きく振りかぶる。

「え? 何?」

 訳が分からず困惑しているアキをよそに。
 ミリアは赤く染まった海の先の先に狙いを定める。
 
 そして――。

「行きます」
「え、何処に……!」

 慌ててミリアを止めに入ろうとするアキになど目もくれず。
 ミリアは振り被った腕を勢いよく振り下ろした。

「えいっ!」

 ミリアの手から離れたそれは、一瞬、きらりと空中で光ったものの、すぐに消えてなくなってしまった。

 それをしっかり見届けると。
 ミリアは、真っ赤に染まる地平を見つめてこう言った。

「エリック、クレア。今まで、ありがとう。そして、さよなら――」

 

 こうして、幼馴染と親友との決別を選んだミリアを真横に。
 アキはというと、その光った先を唖然とした顔で見つめていたものの、次の瞬間、大きな笑い声と共にこう言った。

「……あはは、君って人は! それにしても、ロケット……随分と飛んだねぇー」

 そう言って、愉快そうに頭上に片手を翳して飛んで行った方向を眺め続けるアキに。
 ミリアは、今にも泣きだしそうな顔に笑顔を浮かべてこう言った。
 
「これで、私……恋人も、親友も、友だちも、何もかもみーんな失ってしまいました」

 そう言って、明るく笑いながら涙を押し殺すミリアに。
 アキは、真顔でミリアを見つめると、ムッとしたようにこう言った。

「何言ってるのさ。いるでしょ、ここに」

 そう言って、親指で自分の胸を指し示すアキ。

「あ、アキさん?」

 鼻を啜りながら零れる涙を拭うミリアに、アキは眠そうな目を片方ぱちりと瞑ると、ニヤリと笑ってこう言った。

「君さえよければ、俺が君の友だち第一号ってことで。よろしく、ミリアちゃん?」

 そう言って差し出された、優しさのたくさん詰まった大きな手を。
 ミリアは流れる涙もそのままに、両手できつく握り締めるのであった。