「ミリアさんのご友人というのは、ワイズナーさんのことだったのですね」
そう言って口元を綻ばせるフェリクスに。
ミリアは、少し遠慮がちに尋ねてこう言った。
「はい。あの……フェリクスさんは、その……イヴォンヌさんのお兄さん、なんですか」
「はい、そうですが。もしや、私の馬鹿いも……いえ、失礼。妹が何かご迷惑を?」
イヴォンヌと聞いた途端、フェリクスの顔が険しくなり、ミリアは目を瞬かせると言葉を濁しつつこう言った。
「え、いえ……そういう、訳では……」
しかし――。
「ええ、盛大にご迷惑をお掛けして行ったわよ」
弱気なミリアに代わり、エマが、気分悪そうにそう言い放つ。
エマの、その怒気を孕んだ言葉に。
フェリクスは思いのほか恐縮すると、申し訳なさそうに眉を顰めてこう言った。
「それは……大変申し訳ありませんでした。何とお詫びしたらよいか。あの馬……失礼、妹は少々気位が高い所があって、よく問題を起こすのです。本当に、申し訳ない」
そう言って、深々と頭を下げるフェリクスに。
エマも、満更でもなさそうにこう言った。
「まあ、そこまで言うんなら許さなくもないけど」
その言葉に、ホッとした表情を浮かべると、フェリクスは、ミリアとグレックを交互に見比べ、しみじみと頷きこう言った。
「それにしても、ミリアさんのご友人がグレックさんだったとは……何か、運命を感じますね」
そう言って、眩しそうにミリアを見つめるフェリクスを、ミリアは困ったように見つめ返してこう言った。
「そう、ですか?」
「そうですとも。この何千人と集まっている会場の中から、またあなたを見つけられたのですから」
そういって、会場をぐるっと見つめるフェリクス。
ミリアはどう答えたら良いか分からず、ただこう呟く。
「は、はぁ」
そんなミリアの気持ちを察したのか、アキは遠慮なく話に割って入ると、フェリクスに尋ねてこう言った。
「まあまあ、この話はこのぐらいにして。で、実際は何の用でここに?」
アキのその質問に。
フェリクスは、ふと思い出したようにグレックを見るものの、つと目を伏せ、とても言いだし辛そうな顔で下を向く。
だが、直ぐに思い直したように顔を上げると、フェリクスは、グレックを真っ直ぐに見つめてこう話を切り出した。
「ワイズナーさん。実は、あなたにひとつ、伝えたいことがあって来たんです」
「俺に?」
そう言って、怪訝そうな顔をするグレックに。
フェリクスは、大きく頷いて見せると話を続けてこう言った。
「はい。あなたは先程、手首にけがを負われましたよね」
「ああ、それが?」
「私は、だからと言って、あなたの怪我を狙わないとは言いません。勝つ見込みがあるなら、そこを重点的に狙わせて貰います」
はっきりとそう宣言するフェリクスに。
ミリアは思わず驚きの声を上げてしまう。
「え」
「……ちょっと、やり方が汚いんじゃない?」
エマも、余りに一方的で、余りに卑劣なやり口に、眉を顰めてそう言った。
だが、当のグレックはというと。
ミリアとエマを穏やかに目で制してから、自分の思いを素直に言葉にしてこう言った。
「そんなことはないさ。俺が手首を怪我したのは、試合の一環で、俺の気の緩みが招いた結果だ。俺が彼なら、彼と同じことをするだろう。分かった。次の試合、怪我は気にせず、正々堂々と勝負しようじゃないか」
そう言って、片手を差し出すグレックに。
フェリクスも遠慮がちに反対の手を差し出しこう言った。
「そう言って貰えて、肩の荷が下りました。ありがとうございます。手の怪我のことは本当に、残念です」
そうして二人、握手を交わし合うと、互いの健闘を約束しこう言った。
「それでは、私はこの辺で。ワイズナーさん、手は抜きませんよ」
「俺も、勝ちを譲る気は毛頭ない」
「では、また後で」
「ああ、またな」
そう言って、フェリクスが去って行くのを確認すると。
アキは、素直な感想を漏らしてこう言った。
「なんか、真面目というか何というか……」
「確かに、大真面目だな」
そう言って、グレックは思い出したようにフッと口元に笑みを浮かべると、心底愉快そうにムニエルを頬張るのであった。
そう言って口元を綻ばせるフェリクスに。
ミリアは、少し遠慮がちに尋ねてこう言った。
「はい。あの……フェリクスさんは、その……イヴォンヌさんのお兄さん、なんですか」
「はい、そうですが。もしや、私の馬鹿いも……いえ、失礼。妹が何かご迷惑を?」
イヴォンヌと聞いた途端、フェリクスの顔が険しくなり、ミリアは目を瞬かせると言葉を濁しつつこう言った。
「え、いえ……そういう、訳では……」
しかし――。
「ええ、盛大にご迷惑をお掛けして行ったわよ」
弱気なミリアに代わり、エマが、気分悪そうにそう言い放つ。
エマの、その怒気を孕んだ言葉に。
フェリクスは思いのほか恐縮すると、申し訳なさそうに眉を顰めてこう言った。
「それは……大変申し訳ありませんでした。何とお詫びしたらよいか。あの馬……失礼、妹は少々気位が高い所があって、よく問題を起こすのです。本当に、申し訳ない」
そう言って、深々と頭を下げるフェリクスに。
エマも、満更でもなさそうにこう言った。
「まあ、そこまで言うんなら許さなくもないけど」
その言葉に、ホッとした表情を浮かべると、フェリクスは、ミリアとグレックを交互に見比べ、しみじみと頷きこう言った。
「それにしても、ミリアさんのご友人がグレックさんだったとは……何か、運命を感じますね」
そう言って、眩しそうにミリアを見つめるフェリクスを、ミリアは困ったように見つめ返してこう言った。
「そう、ですか?」
「そうですとも。この何千人と集まっている会場の中から、またあなたを見つけられたのですから」
そういって、会場をぐるっと見つめるフェリクス。
ミリアはどう答えたら良いか分からず、ただこう呟く。
「は、はぁ」
そんなミリアの気持ちを察したのか、アキは遠慮なく話に割って入ると、フェリクスに尋ねてこう言った。
「まあまあ、この話はこのぐらいにして。で、実際は何の用でここに?」
アキのその質問に。
フェリクスは、ふと思い出したようにグレックを見るものの、つと目を伏せ、とても言いだし辛そうな顔で下を向く。
だが、直ぐに思い直したように顔を上げると、フェリクスは、グレックを真っ直ぐに見つめてこう話を切り出した。
「ワイズナーさん。実は、あなたにひとつ、伝えたいことがあって来たんです」
「俺に?」
そう言って、怪訝そうな顔をするグレックに。
フェリクスは、大きく頷いて見せると話を続けてこう言った。
「はい。あなたは先程、手首にけがを負われましたよね」
「ああ、それが?」
「私は、だからと言って、あなたの怪我を狙わないとは言いません。勝つ見込みがあるなら、そこを重点的に狙わせて貰います」
はっきりとそう宣言するフェリクスに。
ミリアは思わず驚きの声を上げてしまう。
「え」
「……ちょっと、やり方が汚いんじゃない?」
エマも、余りに一方的で、余りに卑劣なやり口に、眉を顰めてそう言った。
だが、当のグレックはというと。
ミリアとエマを穏やかに目で制してから、自分の思いを素直に言葉にしてこう言った。
「そんなことはないさ。俺が手首を怪我したのは、試合の一環で、俺の気の緩みが招いた結果だ。俺が彼なら、彼と同じことをするだろう。分かった。次の試合、怪我は気にせず、正々堂々と勝負しようじゃないか」
そう言って、片手を差し出すグレックに。
フェリクスも遠慮がちに反対の手を差し出しこう言った。
「そう言って貰えて、肩の荷が下りました。ありがとうございます。手の怪我のことは本当に、残念です」
そうして二人、握手を交わし合うと、互いの健闘を約束しこう言った。
「それでは、私はこの辺で。ワイズナーさん、手は抜きませんよ」
「俺も、勝ちを譲る気は毛頭ない」
「では、また後で」
「ああ、またな」
そう言って、フェリクスが去って行くのを確認すると。
アキは、素直な感想を漏らしてこう言った。
「なんか、真面目というか何というか……」
「確かに、大真面目だな」
そう言って、グレックは思い出したようにフッと口元に笑みを浮かべると、心底愉快そうにムニエルを頬張るのであった。