「はぁー、つかれたぁー」 

 そう言うなり、ミリアは自宅の椅子に座り込むと、糸の切れた操り人形のように脱力した。

「あーもう。直ぐにでも、さっぱりスッキリしたいー」

 そう言って机の上に突っ伏すミリア。

 それでも。

 戦場のような市場を渡り歩き、見事手に入れた食材たちが入った大袋を前に。
 ミリアは、安心したように微笑する。

「これで、明日は万全だよね」

 丸テーブルから徐に体を起こし、ゆるゆると椅子から立ち上がると。
 ミリアは、早速、床に置いた大きな買い物袋から、戦利品である食材を取り出し、ひとつずつ吟味していく。

 先ずは、白身魚二切れ。これは、凍らせてしまったら調理できないので、[冷蔵保管庫]の、凍るか凍らないか絶妙な冷たさの所に入れておく。
 島でなら、沢の水を使って冷やしておくところなのだろうが(とはいっても、島ではほぼその日の内に魚は消費してしまうので、冷やすという事は滅多にないのだか)、王都では、沢の水の代わりにこの[冷蔵保管庫]なるものを使用するらしい。

「それにしても、白身魚……手に入って本当に良かったぁー」

 そう言って、心の中で店の店主に感謝すると。

 ミリアは次の戦利品である茶色の小さな紙袋を、潰れないように優しく取り出す。
 それは、一口サイズの小さなトマトが入った紙袋で、ミリアはその袋の中からミニトマトを二粒取り出すと、それを掌に乗せてコロコロと転がした。

「うん。色も真っ赤で、プチプチしているし……美味しそう!」

 そう呟くと、二粒のミニトマトを紙袋にしまい、ミリアはそれを[冷蔵保管庫]の野菜専用の場所に入れる。

(それにしても、[冷蔵保管庫]っていうのは、色んな場所ごとに冷たさを調節できるから、凄いなぁ)

 改めて、王都の発展した技術に、心の中で感嘆の声を上げるミリア。

 その[冷蔵保管庫]の中に入れるものを、更に追加で取り出すと。
 ミリアは、サニーレタスとキュウリとパセリ、そしてニンニクとシメジを所定の場所に大事そうにしまう。
 それから、卵やバター、そして瓶入りのマヨネーズなんかも、ひとつずつ吟味しながら丁寧にしまっていく。

 そうして、全ての食材を全部しまい終えたミリアは、ゆっくりと片方の肩を回すと満足そうにこう言った。

「これで、明日の準備は大体終わったかな。それにしても……」

 そう言って、首に片手を回すと。
 ミリアはため息交じりにこう言った。

「あー、何だか体……固くなっちゃってるなぁ」

 そう言って、ミリアは両腕を上に伸ばしストレッチする。
 と、そんな自分のストレッチ姿を、備え付けの姿見(すがたみ)に見たミリアは、直ぐに身なりを整えると、小さな木で出来た桶に石鹸とタオルを入れた。

(汗もかいたし、髪の毛も色々ぐちゃぐちゃだし。今日あった嫌なことは、全部、忘れちゃいたいし……よし! このまま、公共浴場に行って、嫌なことぜーんぶ洗い流しちゃおう、うん!)

そう素早く決断すると、ミリアは石鹸とタオルが入った桶と、新しい着替えを入れたバッグを持って、早速、公共浴場へと向かうのであった。