「ちょっと貴女、あれはどういう事?」

 金髪の縦ロールが美しい年頃の娘が、そう言ってミリアの肩をドンと押した。
 思わず後ろによろけるミリアの背中を、今度は緩くウェーブの掛かった濃い栗色の髪を背中まで延ばした若い女が、ドンと押し返す。

「な、何するんですか。止めて下さい!」

 そう必死に訴えるミリアの声など無視し、今度は艶やかな黒髪を首元で綺麗に切り揃えた女が、ミリアの正面に立つとこう言った。

「あんたと王太子殿下の話を聞かせて貰ったけど、あんた……王都の規則を破って、森の奥でイチゴを摘んでたんだって? それで、王太子殿下から直接忠告? ちょっと、田舎者の癖に生意気なんじゃないの?」

 そう言って、ずいと詰め寄って来る黒髪の女に、ミリアは思わず恐れ(おのの)いたものの、勇気を振り絞り、半歩下がりながらもこう言った。

「そ、そんなつもりは……!」

 怯えながらも、そう全力で否定するミリアを鼻で笑い飛ばすと。
 縦ロールの金髪女はミリアを確信に満ちた眼差しで見遣るとこう言った。

「大体みんなそう言うのよ、心で何か良からぬ妄想を抱いている女はね。だから、そういう汚い女たちを追っ払うために、私たちはこうして闘っているのです。王太子殿下の右側の席を守る、[王太子殿下親衛隊]として!」
「右側の席……? [王太子殿下親衛隊]?」

 意味が分からず首を捻るミリアを、濃い栗色の髪の女は苦々し気に見遣ると、ため息交じりにこう言った。

「[王太子殿下親衛隊]っていうのは、王太子殿下を性根の悪い女から守る、女性たちを中心とした組織のこと。そして、右側の席っていうのは、[王太子妃の座]のことよ、全く……これだから田舎者は」
「す、すみません……」

 ミリアはともかく、相手の気持ちを落ち着かせようと必死に頭を下げる。

 と、その時。

 ぺこぺこと何度も頭を下げるミリアの横から、何者かがスッと前に出ると。
 横から話を遮るようにこう言った。

「えっと失礼ー、お嬢さん方。この子が何か問題でも?」

 そこには、柔らかそうな紅茶色の髪に、若草色の瞳の――。

「あ、アキさん!」
「え? なによ、知り合い?」

 そう言って、眉間に皺を寄せる縦ロールの金髪女に。
 アキは、にっこり笑うとこう言った。

「ええ。それでこの子が何か」

 そう言って、手もみしながらずいと詰め寄るアキに。
 縦ロールの金髪女は、少し頬を赤らめながらこう言った。

「こ、この子が……王太子殿下に色々迷惑をかけていたものですから、少しご忠告させて頂いていたところですの」

 そう言って、金髪の縦ロールを片手で整えると、女は、挑戦的な瞳でアキを見上げる。

 一方、アキはというと。
 
 酷く冷めた目で女を見遣ると、それでも、口元には満面の笑みを浮かべてこう言った。

「そうでしたかー。いやぁ、すみません。俺たち、見ての通りの田舎者でして。まだ、こっちに来て一週間も経ってないんですよ……いや、ほんとに申し訳ない!」

 そう言って、両手をすり合わせて頭を下げるアキに、女たちは顔を合わせると、ばつが悪そうにこう言った。

「別に……あんたに謝られてもねぇ。こいつがちゃんと認識してくれないとさぁ」

 そう言って、黒髪の女はミリアを親指で指さした。
 アキは、申し訳なさそうに後頭部を二、三回かき回すと、やはり、にっこりと笑ってこう言った。

「それは十分、分かってますとも。そこはこの俺がきちんと説明しますんで。ほんと、すみません」

 そう言って、再度謝るアキ。
 そんなアキにとうとう根負けしたのか、濃い栗色の髪の女が大きなため息と共にこう言った。

「まあ、いいわ。あんたに免じて今日はこの辺にしておいてあげる。もし次に殿下にご迷惑をおかけするようなことがあれば……今度は只じゃ置かないから。心しておきなさいよ」

 そういって、ミリアに釘を刺す濃い栗色の髪の女に。
 ミリアは深々と頭を下げると、疲れ切ったようにこう言った。

「す、すみませんでした……」

 こうして、[王太子殿下親衛隊]と名乗る三人の若い女たちは、不満そうな顔で去って行くのであった。

 そして、そんな女三人組の背中をじっと見つめながら。
 アキは、口元に片手を添えると、酷く真面目な顔でこう呟くのだった。
 
「それにしても、殿下はまともな女性とちゃんと結婚出来るのかねぇ」