辺りが紫交じりのピンク色に染まり始め、ミリアは少し急ぎ足で待ち合わせの場所、酒場『狼と子羊亭』を目指していた。
(時間配分、甘かったかなぁ。早くしないと……)
家路に向かう人たちに逆らうように、ミリアは大通りを急ぎ足で歩いていた。
だがそれも、市場付近までのことで、そこから先は、今度は港に集中する酒場に雪崩れ込む人たちの波で、押し流されるように進むことになる。
ミリアは、酒場行きと家路行きの合流地点である市場までたどり着くと、行きかう人の波を掻い潜り、酒場方面へと向かう。
と、その時――。
「ミリアさん?」
少し低めの優し声に呼び止められ、ミリアはハッと辺りを見回す。
(グレックさん? 訓練、もう終わったのかな……)
そんなことを思いながら、グレックの姿をきょろきょろと探していると。
次の瞬間――。
ミリアの肩を、誰かが軽く二回ほど叩いた。
「うわぁ!」
余りに突然のことで、びっくりして後ろを振り返ると。
そこには――。
「ミリアさん、良かった。君を探していたんだよ」
そう言って声を掛けて来たのは、なんと、昨日強請屋シャークの魔の手からアキを救ってくれた、この国の王太子殿下――ユートであった。
※ ※ ※
「で、殿下!? な、なぜ私などに……?」
恐れ多いとばかりにそう言って畏まるミリアに。
殿下は困ったように形の良い眉を顰めると、顎に手を当てこう言った。
「今日、城のすそ野に広がる森の奥に入って、イチゴを摘んでいた者が居たという報告が騎士から上がってね。もしやと思ったんだが……君、じゃないよね?」
その意味深な問い掛けに。
ミリアは余りの恥ずかしさに、顔が真っ赤になるのを感じながらも、蚊の鳴くような声でこう言った。
「すみません、殿下……それ、私だと思います」
「そうか、やはりね……」
ため息交じりにそう言うと、殿下は今までとは打って変わった少しきつめの口調でミリアに向かってこう言った。
「森や鉱山の奥には、今日君が遭遇した大熊など危険な猛獣たちも生活していてね。非常に危険なんだよ。確かに、イチゴや木の実など、たくさん取れて一見良さそうに見えるだろうけど、君の命を守るためだ。『森や鉱山の奥には入らない』、王都のこのルールは守って欲しい」
そう言って、ミリアの青い瞳を真摯に見つめてそう訴え掛ける王太子に。
ミリアは申し訳なさそうにこう言った。
「はい。すみません、でした」
「分かって貰えたらそれでいい。協力に感謝する」
そう言うと、王太子殿下は身を翻し、颯爽と市場を後にするのであった。
そしてまた、その様子を見ていた国民たちは、ある人は嫌味たらしく笑い、ある人は羨むようにそれを見つめるのであった。
(時間配分、甘かったかなぁ。早くしないと……)
家路に向かう人たちに逆らうように、ミリアは大通りを急ぎ足で歩いていた。
だがそれも、市場付近までのことで、そこから先は、今度は港に集中する酒場に雪崩れ込む人たちの波で、押し流されるように進むことになる。
ミリアは、酒場行きと家路行きの合流地点である市場までたどり着くと、行きかう人の波を掻い潜り、酒場方面へと向かう。
と、その時――。
「ミリアさん?」
少し低めの優し声に呼び止められ、ミリアはハッと辺りを見回す。
(グレックさん? 訓練、もう終わったのかな……)
そんなことを思いながら、グレックの姿をきょろきょろと探していると。
次の瞬間――。
ミリアの肩を、誰かが軽く二回ほど叩いた。
「うわぁ!」
余りに突然のことで、びっくりして後ろを振り返ると。
そこには――。
「ミリアさん、良かった。君を探していたんだよ」
そう言って声を掛けて来たのは、なんと、昨日強請屋シャークの魔の手からアキを救ってくれた、この国の王太子殿下――ユートであった。
※ ※ ※
「で、殿下!? な、なぜ私などに……?」
恐れ多いとばかりにそう言って畏まるミリアに。
殿下は困ったように形の良い眉を顰めると、顎に手を当てこう言った。
「今日、城のすそ野に広がる森の奥に入って、イチゴを摘んでいた者が居たという報告が騎士から上がってね。もしやと思ったんだが……君、じゃないよね?」
その意味深な問い掛けに。
ミリアは余りの恥ずかしさに、顔が真っ赤になるのを感じながらも、蚊の鳴くような声でこう言った。
「すみません、殿下……それ、私だと思います」
「そうか、やはりね……」
ため息交じりにそう言うと、殿下は今までとは打って変わった少しきつめの口調でミリアに向かってこう言った。
「森や鉱山の奥には、今日君が遭遇した大熊など危険な猛獣たちも生活していてね。非常に危険なんだよ。確かに、イチゴや木の実など、たくさん取れて一見良さそうに見えるだろうけど、君の命を守るためだ。『森や鉱山の奥には入らない』、王都のこのルールは守って欲しい」
そう言って、ミリアの青い瞳を真摯に見つめてそう訴え掛ける王太子に。
ミリアは申し訳なさそうにこう言った。
「はい。すみません、でした」
「分かって貰えたらそれでいい。協力に感謝する」
そう言うと、王太子殿下は身を翻し、颯爽と市場を後にするのであった。
そしてまた、その様子を見ていた国民たちは、ある人は嫌味たらしく笑い、ある人は羨むようにそれを見つめるのであった。