「やっぱり、この店で間違いなさそうだよ」
 
 そう言って、カウンターから戻ってきたアキは、店内にある四人掛けの椅子に座ると、得意げにそう言った。

「さすがです、アキさん! この調子なら、今日中にでもエマさんと合流出来そうですね!」

 同じく、同じテーブルの椅子に先に座っていたミリアは、そう言って両手を胸の前で合わせる。
 そんなミリアを楽し気に見つめると、アキは自分の後ろの方にあるカウンターを親指で指さしながらニヤリと笑ってこう言った。

「あそこのカウンターにいるバーテンダー、彼に聞いたら、なんでも連日、『雇ってくれ!』ってうるさく言ってくる女がいるって店長がぼやいてたって。これは、十中八九、エマだね……」
「エマさん……本気の本気、なんですね。料理のこと」

 そう言って、羨ましそうに、微笑み俯くミリアに。
 アキは同意するように頷くと、「補足情報」と言ってこう続ける。

「あとバーテンダーによると、今日まだエマは来ていないらしい。ということで……このままエマを待ちたいんだけど、さて。ミリアちゃん、何食べる?」

 そう言って、アキがメニューに手を伸ばした瞬間――。

 アキの手は何者かの手によって叩き落とされてしまう。

「痛って……って。あ……」

 そう言って、唖然とした顔で見上げるアキの視線の先――。
 
 そこには。

「これはこれは。[忌み子]のアキ様じゃないですか。王都で早速、女連れとは……[忌み子]ってのは、お気楽でいいですねぇ」

 長いストレートの黒髪を後ろ手にきつく縛った青い瞳の男と、背の低い短髪赤毛の男が、蔑むような()でアキを見下ろしているのだった。




「……グリフォード、それにプラハか」

 そう言って、小さく舌打ちするアキ。
 そんなアキを不愉快そうに見遣ると、黒髪碧眼の男――グリフォードは、嫌味たらしくこう言った。

「まあ、元々誰にも期待されておられないのですから、女を侍らせて我を忘れたくもなりますか……いやはや、お可哀そうなことだ」
「アキさん、この人……!」

 男の余りに失礼な態度に、ミリアは思わず席から腰を浮かせる。

 しかし――。

(いいから……)

 アキはミリアを目で制すると、怯むこと無く男の鋭く青い瞳をじっと見つめた。

 二人の視線が絡み合い、しばし火花を散らす。

 だがそれも数秒のことで、グリフォードは皮肉な笑みを口元に浮かべると、敵意も顕にこう言い放った。

「ふん。同郷の仲間に気の利いた言葉ひとつ掛けるどころか、無言で睨んで来るとは……やっぱり、[忌み子]は[忌み子]だな」
 
 その言葉に畳み掛ける様に、赤髪の短髪男――プラハが憎々し気にこう言った。

「ほんとですよ、同じ空気を吸ってるだけで呪われそうだ」

 そう言ってくつくつ笑うプラハに、ミリアは我慢ならないという風に顔を赤くすると、短髪男の緑色の瞳をキッと睨み付けながらこう言った。

「そんな、そんな言い方って……」
「ミリアちゃん! いいから……」

 そう言って、ミリアを制するアキを面白くなさそうに眺めると。
 グリフォードは、興ざめだとでも言うようにこう言った。

「プラハ、時間が勿体無い。行くぞ」
「あ……はい! グリフォードさん」

 そう言うと、二人は酒場の出口へとゆっくりした足取りで消えていくのであった。

 

     ※     ※     ※



「あの人たち、一体何なんですか? アキさんのこと[忌み子]って……。そもそも、[忌み子]って、何なんですか!」

 そういきり立つミリアに。
 アキは、酷く言い難そうに頭をかくと、瞳を彷徨わせながらこう言った。

「ああ、それね。それは……」

 そう口ごもるアキに、業を煮やしたミリアが鋭く切り込もうと口を開いたその時――。

「[忌み子]ってのは、こいつのこと。偶然に一卵性双生児の兄として生まれただけなのに、只の迷信で[忌み子]扱い。ほんと、馬鹿みたいな話よね……」
「あ、エマさん!?」

 驚きと喜びに口元を綻ばせるミリアに。

「久しぶり。思ったより早く会えてよかったわ」

 そう言って軽く笑みを零すと。
 エマは、ミリアの隣の席にゆったりと腰を下ろすのだった。