王太子を褒め称える国民たちの間をすり抜け、ミリアは噴水の中に一人座り続けるアキの所に転がるように駆け寄った。
「アキさん! 大丈夫ですか!」
「あれ、ミリアちゃん?」
シャークにかなり手ひどく扱われていたにも関わらず、アキは思っていたよりもあっけらかんとこう言った。
「へーき、へーき。でも、酷い所みられちゃったな、はは」
そう言ってからからと笑うアキに、ミリアは涙を滲ませながらこう言った。
「良かったです、無事で。本当に……」
「あはは、ごめんね……」
そう言って、恥ずかしそうに後頭部をかくアキに。
「大丈夫かい? 手を……」
突然。
白い制服を着た男――王太子殿下が鍛えられた腕をずいと伸ばしてそう言った。
「あ、すいません」
アキは、軽く頭を下げると男の手をグッと握って立ち上がる。
そんなアキに、王太子殿下は気さくに笑って見せるとこうアキを労った。
「それにしても、災難だったね」
「はい。はあ……殿下がもう少し早く来て下されば、少なくとも濡れずに済んだかも……」
ちょっとしたやっかみもあるのだろうか。
アキは少し嫌味っぽくそう言う。
そんなアキを、ミリアは顔を赤くして叱責した。
「アキさん! 王太子殿下様に失礼ですよ!」
しかし、当の殿下は怒るどころか、口元に片手を当てると至極真面目な顔でこう言った。
「うん、確かにそうだね。今度からはもう少し早く駆け付けられるよう気を付ける」
「頼みます」
投げやりにそう言って、濡れた髪を絞るアキを横目に。
王太子殿下は、思い出したように尋ねて言った。
「そういえば、君たちの名前を聞いていなかったよね。何ていう名前なの?」
そう言って、ミリアのことをじっと見つめる王太子に。
ミリアは少し顔を赤らめつつこう言った。
「私は、ミリアです。ミリア・ヘイワード。今年の王都への移住者です」
「ミリアさんか。それで君は? 君はなんていうの?」
そう王太子に尋ねられたアキは、少し驚いたようにこう言った。
「あ、俺ですか? ……俺は、アキです。アキ・リーフウッドって言います」
「アキ? アキ・リーフウッド?」
そう言って、少し押し黙る王太子に。
アキは少し戸惑ったようにこう言った。
「え、なんですか? おれ、なんか悪いこと……」
「いや……」
そういうと、王太子は少し遠い目をしながらアキを見遣るとこう言った。
「そう、か。君があの[忌み子]か。なるほどね」
そういって、アキのことを上から下までじろじろ見る王太子に。
アキは、少し恥ずかしそうに頭をかくと、ため息交じりにこう言った。
「『なるほどね』って……俺が[忌み子]だって、王都でも広まってるんですかね……」
かなり投げやりにそう言って凹むアキに。
王太子殿下は微笑しながらこう答えた。
「いや。そんなことは無いよ。ただね……」
そう言って言葉を切ると、アキを優しい眼差しで見つめながらこう言った。
「今回のことを踏まえ、老婆心ながら一言言わせて貰えば、アキ・リーフウッド、『あまり人を怒らせるんじゃない』!」
「え……」
眠い目を目いっぱい見開き、アキは驚愕の表情で王太子殿下を見つめる。
そんなアキにニヤリと笑って見せると、王太子は身を翻してこう言った。
「それじゃ、失礼するよ」
そう言って、一度も振り返ることなく王城の方角へと去って行く王太子の背中に向けて、ミリアは精いっぱいの想いを込めてこう言った。
「あ、ありがとうございました!」
そう言って、深々と頭を下げるミリアを横に。
アキは、魂を抜かれた人形のように、呆然とした面持ちでこう呟く。
「何で……なんで王太子が、《《あの言葉》》を?」
そう言うと。
アキは、困惑の表情を浮かべたまま、小さくなっていく王太子の背中を微動だにせず、じっと見つめるのであった。
「アキさん! 大丈夫ですか!」
「あれ、ミリアちゃん?」
シャークにかなり手ひどく扱われていたにも関わらず、アキは思っていたよりもあっけらかんとこう言った。
「へーき、へーき。でも、酷い所みられちゃったな、はは」
そう言ってからからと笑うアキに、ミリアは涙を滲ませながらこう言った。
「良かったです、無事で。本当に……」
「あはは、ごめんね……」
そう言って、恥ずかしそうに後頭部をかくアキに。
「大丈夫かい? 手を……」
突然。
白い制服を着た男――王太子殿下が鍛えられた腕をずいと伸ばしてそう言った。
「あ、すいません」
アキは、軽く頭を下げると男の手をグッと握って立ち上がる。
そんなアキに、王太子殿下は気さくに笑って見せるとこうアキを労った。
「それにしても、災難だったね」
「はい。はあ……殿下がもう少し早く来て下されば、少なくとも濡れずに済んだかも……」
ちょっとしたやっかみもあるのだろうか。
アキは少し嫌味っぽくそう言う。
そんなアキを、ミリアは顔を赤くして叱責した。
「アキさん! 王太子殿下様に失礼ですよ!」
しかし、当の殿下は怒るどころか、口元に片手を当てると至極真面目な顔でこう言った。
「うん、確かにそうだね。今度からはもう少し早く駆け付けられるよう気を付ける」
「頼みます」
投げやりにそう言って、濡れた髪を絞るアキを横目に。
王太子殿下は、思い出したように尋ねて言った。
「そういえば、君たちの名前を聞いていなかったよね。何ていう名前なの?」
そう言って、ミリアのことをじっと見つめる王太子に。
ミリアは少し顔を赤らめつつこう言った。
「私は、ミリアです。ミリア・ヘイワード。今年の王都への移住者です」
「ミリアさんか。それで君は? 君はなんていうの?」
そう王太子に尋ねられたアキは、少し驚いたようにこう言った。
「あ、俺ですか? ……俺は、アキです。アキ・リーフウッドって言います」
「アキ? アキ・リーフウッド?」
そう言って、少し押し黙る王太子に。
アキは少し戸惑ったようにこう言った。
「え、なんですか? おれ、なんか悪いこと……」
「いや……」
そういうと、王太子は少し遠い目をしながらアキを見遣るとこう言った。
「そう、か。君があの[忌み子]か。なるほどね」
そういって、アキのことを上から下までじろじろ見る王太子に。
アキは、少し恥ずかしそうに頭をかくと、ため息交じりにこう言った。
「『なるほどね』って……俺が[忌み子]だって、王都でも広まってるんですかね……」
かなり投げやりにそう言って凹むアキに。
王太子殿下は微笑しながらこう答えた。
「いや。そんなことは無いよ。ただね……」
そう言って言葉を切ると、アキを優しい眼差しで見つめながらこう言った。
「今回のことを踏まえ、老婆心ながら一言言わせて貰えば、アキ・リーフウッド、『あまり人を怒らせるんじゃない』!」
「え……」
眠い目を目いっぱい見開き、アキは驚愕の表情で王太子殿下を見つめる。
そんなアキにニヤリと笑って見せると、王太子は身を翻してこう言った。
「それじゃ、失礼するよ」
そう言って、一度も振り返ることなく王城の方角へと去って行く王太子の背中に向けて、ミリアは精いっぱいの想いを込めてこう言った。
「あ、ありがとうございました!」
そう言って、深々と頭を下げるミリアを横に。
アキは、魂を抜かれた人形のように、呆然とした面持ちでこう呟く。
「何で……なんで王太子が、《《あの言葉》》を?」
そう言うと。
アキは、困惑の表情を浮かべたまま、小さくなっていく王太子の背中を微動だにせず、じっと見つめるのであった。