差し出された手を、じっと微動だにせず見つめていたアキは、何を思ったか、皮で出来たズボンの、後ろポケットに手を突っ込むと、黒革で出来た財布のジッパーを開くと、それを逆さにしてこう言った。
「すみません、俺……金、無いんで。無い袖は振れないというか……ほんと、ごめんなさい」
そう言って頭を下げるアキに。
シャークは苛立ちも顕にこう言った。
「そんな訳あるか! 国からたんまり支度金貰ってんだろうが! それを出せばそれでいいんだよ! 分かってんだろ、コラァ!」
そう言って、ずかずかとアキに近づきその頭を目いっぱいひっぱたくシャーク。
観衆からどよめきが上がる。
「…………!」
ミリアも見ていられなくなって、顔を背けてしまう。
それでも、アキはシャークを上目遣いに見上げると、片手で後頭部を擦りながら、にっこり笑ってこう言った。
「そんなこと言われても、無いものは無いんですよ。ほんとに。俺、家族にみんな持ってかれたんで……」
「ああん? そんな訳あるか、ボケェ!」
そう言って、男はまたアキの頭を勢いよく叩き付ける。
そして、アキの髪の毛を鷲掴みにすると、男はドスの効いた声でこう言った。
「てめぇ、さっきからふざけんのか? いい加減にしねぇとその口……」
そう言って、男が拳を振り上げたその時――。
「その口が、なんだって?」
そう言うと、白い制服を身に纏ったはしばみ色のショートボブの男が、シャークの太い腕をがっしりと掴む。
そして、形の良い眉を鋭く怒らせると、鳶色の瞳をスッと細め、威厳のこもった低い声でこう言い放った。
「黄昏のシャーク、基、ニコラ・フェラー。強請の現行犯で逮捕する」
「げ、てめぇは……」
そう言って眉間に皺を寄せると、シャークは白い制服の男を憎々し気に睨んだ。
そんなシャークを、白い制服の男は涼し気に見遣ると、ため息交じりにこう言った。
「何度捕まれば気が済むの、ニコラ・フェラー。このまま改心しなければ、国外追放も考えないと」
「チッ……ついてねぇ」
「何を言っての? こんな人目の付くところで派手にやっていれば、僕でなくとも誰かが君を捕縛しただろう。そんなことも分からないなんてね……」
呆れたとばかりに肩を竦める白い制服の男に。
シャークは余計なお世話とばかりにこう吐き捨てる。
「うるせぇ! 地位も名誉も、金もたんまりあるお前に、俺の何が分かるってんだ……」
その言葉に、白い制服の男は一瞬押し黙るも、直ぐに鋭い眼光を飛ばすとこう言った。
「衛兵! 連れていけ」
「はっ! ほら、行くぞシャーク!」
そう言って、衛兵に難なく絡め捕られたシャークは、負け惜しみのようにこう言った。
「チッ、痛ぇな。もっと優しく扱えよ……」
こうして、王城の方へと連れ去られていくシャークを横目で確認すると。
白い制服の男は、集まっていた群衆に向けて、威厳のこもった声でこう言った。
「皆の者、脅威は取り除いた。もう怯えることは無い。安心して今日を過ごすがよい」
白い制服の男の、その力強い言葉に。
安堵の言葉と感謝の言葉が至る所から飛び交い始める。
「あ、ありがとうございます、王太子殿下!」
「ユート王太子様、ありがとうございます!」
「感謝します、殿下!」
「さすが、我らが誇り! ユート王太子殿下! ありがとうございます!」
はしばみ色のサラサラな髪に、意志の強そうな鳶色の瞳、そして、腰に佩いた白い鞘の美しい長剣――。
「あれが、バーン王国の……私の国の、王太子殿下……」
ミリアはその、美しさと強さと気高さに、思わず見とれてしまうのであった。
「すみません、俺……金、無いんで。無い袖は振れないというか……ほんと、ごめんなさい」
そう言って頭を下げるアキに。
シャークは苛立ちも顕にこう言った。
「そんな訳あるか! 国からたんまり支度金貰ってんだろうが! それを出せばそれでいいんだよ! 分かってんだろ、コラァ!」
そう言って、ずかずかとアキに近づきその頭を目いっぱいひっぱたくシャーク。
観衆からどよめきが上がる。
「…………!」
ミリアも見ていられなくなって、顔を背けてしまう。
それでも、アキはシャークを上目遣いに見上げると、片手で後頭部を擦りながら、にっこり笑ってこう言った。
「そんなこと言われても、無いものは無いんですよ。ほんとに。俺、家族にみんな持ってかれたんで……」
「ああん? そんな訳あるか、ボケェ!」
そう言って、男はまたアキの頭を勢いよく叩き付ける。
そして、アキの髪の毛を鷲掴みにすると、男はドスの効いた声でこう言った。
「てめぇ、さっきからふざけんのか? いい加減にしねぇとその口……」
そう言って、男が拳を振り上げたその時――。
「その口が、なんだって?」
そう言うと、白い制服を身に纏ったはしばみ色のショートボブの男が、シャークの太い腕をがっしりと掴む。
そして、形の良い眉を鋭く怒らせると、鳶色の瞳をスッと細め、威厳のこもった低い声でこう言い放った。
「黄昏のシャーク、基、ニコラ・フェラー。強請の現行犯で逮捕する」
「げ、てめぇは……」
そう言って眉間に皺を寄せると、シャークは白い制服の男を憎々し気に睨んだ。
そんなシャークを、白い制服の男は涼し気に見遣ると、ため息交じりにこう言った。
「何度捕まれば気が済むの、ニコラ・フェラー。このまま改心しなければ、国外追放も考えないと」
「チッ……ついてねぇ」
「何を言っての? こんな人目の付くところで派手にやっていれば、僕でなくとも誰かが君を捕縛しただろう。そんなことも分からないなんてね……」
呆れたとばかりに肩を竦める白い制服の男に。
シャークは余計なお世話とばかりにこう吐き捨てる。
「うるせぇ! 地位も名誉も、金もたんまりあるお前に、俺の何が分かるってんだ……」
その言葉に、白い制服の男は一瞬押し黙るも、直ぐに鋭い眼光を飛ばすとこう言った。
「衛兵! 連れていけ」
「はっ! ほら、行くぞシャーク!」
そう言って、衛兵に難なく絡め捕られたシャークは、負け惜しみのようにこう言った。
「チッ、痛ぇな。もっと優しく扱えよ……」
こうして、王城の方へと連れ去られていくシャークを横目で確認すると。
白い制服の男は、集まっていた群衆に向けて、威厳のこもった声でこう言った。
「皆の者、脅威は取り除いた。もう怯えることは無い。安心して今日を過ごすがよい」
白い制服の男の、その力強い言葉に。
安堵の言葉と感謝の言葉が至る所から飛び交い始める。
「あ、ありがとうございます、王太子殿下!」
「ユート王太子様、ありがとうございます!」
「感謝します、殿下!」
「さすが、我らが誇り! ユート王太子殿下! ありがとうございます!」
はしばみ色のサラサラな髪に、意志の強そうな鳶色の瞳、そして、腰に佩いた白い鞘の美しい長剣――。
「あれが、バーン王国の……私の国の、王太子殿下……」
ミリアはその、美しさと強さと気高さに、思わず見とれてしまうのであった。