「それで。そんな傷心のエマは、王都に行ったら何したいの? 俺、聞いてなかった気がするんだけど」

 そう言って、テーブルに片肘を突いて顎を乗せるアキに。
 エマは、少し恥ずかしそうに髪の先端を弄ると、テーブルの上に視線を落としながらこう言った。

「私は、料理を勉強したいかな。うち、酒場だったし。だから、酒場で働きたい。そして、私の作った料理をみんなに食べてもらいたいわ」

 そう言って、少し恥ずかしそうに口を閉じたエマに。
 アキは、嬉しそうに微笑むと真摯な眼差しでこう言った。

「うん。エマにぴったりだと俺は思うよ、いい夢だよね。で、次。ミリアちゃんは?」
「えっ、私ですか?」

 突然話を振られ、ミリアは思わず口ごもってしまう。

「私は、その……」

(私の、したいこと……私の)

 その時、パッと脳裏にあるものが思い浮かぶ。
 父が餞別に持たせてくれた、茶色くて、ボコボコしていて、不格好な――。

「じ、ジャガイモを!」

 突然、そう叫んだミリアに、アキは驚いたように眠そうな目をカッと見開いた。
 そして、直ぐに緑の瞳を眇めると、慎重に言葉を選んでこう尋ねる。

「ジャガ、イモ……?」
「はい! 父がくれた新品種のジャガイモを、王都で流行らせてみたいです!」

 そう鼻息も荒く意気込むミリアに。
 アキは、愉快そうに微笑むと、力強くこう言った。

「ふふ、いいね、いいんじゃない? どんな形と味のジャガイモなのか、俺は楽しみだなぁ!」

 そう言って、楽しそうに笑い声を上げるアキ。
 そんなアキを横目に、グレックが納得したようにこう言った。

「ジャガイモを流行らす、か。戦う畑は違うが、剣技を試したいという俺と似たような夢だな」

 エマも、興味津々といった体で、間髪入れずにこう言った。

「育てたジャガイモ、出来たら私にも分けてよね。美味しいジャガイモ料理、作って見せるからさ」

 ミリアの田舎臭い夢を笑い飛ばすどころか、共に喜び応援してくれる三人に。
 ミリアは感謝の気持ちを込め、目いっぱいの笑顔でこう言った。

「はい! 必ず、皆さんに美味しいジャガイモをお届けします!」

 そうして四人の間に和やかな空気が流れると。
 何を思ったか、グレックはニヤリと笑うと、アキに向かってこう問いかけた。

「そういえばアキ、お前は王都で何するんだ?」

 思いがけず話を振られたアキは、一瞬戸惑っていたものの、それでも、いつもの調子でこう言い切った。

「あ、俺ー? 俺は……テキトーに働いて、取り敢えず王都の名所を回って、王都の流行りものを追いかける……って感じ?」

 そう言って、カラカラと笑うアキに。
 グレックとエマが間髪入れずこう言った。

「最低だな」
「最低ね」

 そんな二人の感想を、面白くなさそうに受け流すと、アキは、片手をぺっぺと動かすと、うざったそうにこう言った。

「あーあー、なんとでも」

 そう言ってふて腐れるアキに。
 ミリアはどうしても不思議に思ってこう尋ねた。

「アキさんは、何で王都で適当に暮らしたいんですか?」
「どう、してって……」

 ミリアに大真面目に尋ねられ、不意を突かれたアキは思わずそうたじろいだ。
 そんなアキに畳み掛けるように、エマは意地悪くこう言う。

「それ、あたしも聞きたいわ」
「話してみろ、アキ」

 グレックも、にやにやしながらそう悪乗りする。
 そんな二人の底意地の悪いやり方に、アキはぎりぎり歯ぎしりするも、ふと神妙な顔をしてこう言った。

「……実は」
「実は……?」

 思わず身を乗り出す三人。

 しかし――。

「そんなの、言う訳ないじゃない? 秘密だよ、ひ・み・つ! ……って、それよりさ、お腹すいちゃったよ。みんなでなんか食べよう? 料理は王国の奢りらしいからさ。食べなきゃ損……ってね?」

 そう言って無理やり話を逸らすと。
 アキは鼻歌を歌いながら、テーブルにあるメニュー表に視線を落とすのであった。