学校イチ人気者なアイドルに恋する私。を、なぜかそのお兄さんが愛してくるんだが。





「待って律ちゃん」


「……行くところがあるんで」



隣の家とは反対方向。

迷わず進んでいく私に、藍さんも気になったのかついてきた。


来るなって言ったところでどーせ聞いてくれないだろうし、悪いけど今の私は正直それどころじゃない。



「……ここか」



まだ時間帯的にも部活は終わってない。

家から徒歩圏内で行ける距離に高校があることは吉と出るか凶になるか。


暑苦しい道場は、自分とはまったく無縁のものだと思っていた。



「上鷹!また動きが良くなったな。そのまま相手の隙をついて積極的に攻める姿勢を維持しろ!」


「はいっ!!」


「次!休むなよおまえら!!」



ドンッ!
スッ、パシッ!!


胸ぐらを掴み、身体が畳に打ち付けられる音。

畳を擦った踵(かかと)が出す音に、緩んだ胴着や帯を締めなおす音。


そいつはこめかみに流れる汗をぐいっと拭って、稽古に無我夢中に打ち込んでいた。