「おい和泉妹~」
なにを思ったのか、タイピング音が少し前から消えていた。
椅子を反転させたものの立ち上がることはなく、逆光のなかで誇らしげな顔を向けてくる保険医。
「はい!」
「…おまえのその返事はな、おまえにしかないものだぞ」
「はいっ」
この保険医はたぶん、私が言葉にできないことを簡単に形にしてしまえるんだ。
「それと、ADHDってのは誰に言われた?」
「自分で調べました!」
「調べただけか?病院にでも行った?」
「いえ病院には行ってないです!ネット知識です!」
「医者でさえ間違えることがある世の中だ。ネット知識がすべて正しいと思うことも間違ってる。なんでかというと、そもそも間違えることがある人間が作ってるのがインターネットだからな」
負けた、と思った。
丸メガネの奥、彼女の瞳はまっすぐ私を捉えていただけ。
たったそれだけでこの保険医にはすべてお見通しだと、突きつけられる。



