「うっちー、1年A組の瀬戸です」
「おー、どした?怪我か?」
「あたまにバレーボールがダイレクトヒットで。プラス貧血と足もひねりました。この子が」
「あらら、おっけおっけ。とりあえず奥のベッドなー」
相変わらず落ち着く空気感で充満してる教室だ。
私は先生のなかでこの保険医がダントツで好き。
サバサバしている30代半ば、独身女性。
男子生徒たちは独身って部分をいじってるけど、本人は気にもしない鼻笑いを見せるところとか。
そんな保険医───内野(うちの)先生こと通称うっちーは、慣れた手つきでデスクから立ち上がって氷袋を用意した。
「ありゃ、わりとガッツリめのタンコブできてるぞ和泉妹。まったくかわいい顔が可哀想に」
「はうっ」
「これ、治ります?残ったりしませんよね?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。人間の治癒力ナメんな」
「あうっ」
数日前に切りすぎたという前髪をいじる人間はもう、いない。
真琴本人も忘れたように気にしてないし、今もされるがままで面白い。



