斎宮がある伊勢の山々全域は地上の神域で、斎宮に従事する者たちしか立ち入れない禁足地である。この御山にあるのは樹齢何百年とも思われる神木ばかりで、山は厳かで静謐な雰囲気に満ちていた。
しばらく山道を歩くと伊勢の山々を見渡せる丘に出た。
目の前に広がった深い山々と大渓谷。遠目に飛沫を上げる高い滝と急流が見えて、この原生林が広がった見事な絶景に紫紺と青藍は大興奮だ。
「おお〜っ、すごい! おっきい!」
「あぶぶっ、あーあー!」
「ヤッホー!!」
紫紺が大きな声でヤッホーした。
すると山々に反響してヤッホーヤッホーヤッホーと響く。
それを見ていた青藍は目をぱちくりさせて真似をする。
「あうあ〜!」
あうあ〜……。……赤ちゃんの声は小さかった。
紫紺のように反響せず、抱っこしてくれている黒緋に訴える。
「あうーっ。あいっ、あーあー!」
「……自分が悪いんだろ」
「あうー……」
青藍が拗ねてしまった。
気づいた鶯が小さく笑って慰める。
「ふふふ、青藍ももうちょっと大きくなったら上手にできますよ」
「あうあ〜」
抱っこしろと手を伸ばした青藍を鶯が抱っこしてよしよしした。
「黒緋様、ここでしばらく休憩しましょうか」
「そうだな。この絶景はゆっくり眺めたい」
しばらく絶景を眺めながら小休憩することになった。
斎宮を出てからのんびり歩いていたが、それでも山道は疲れるものなのだ。
「紫紺、疲れたでしょう。水を飲みなさい」
「はい!」
紫紺が持っていた竹筒の水を飲んだ。
その姿に目を細め、鶯は青藍にも水を飲ませてやる。
「どうぞ、青藍も水を飲んでください。べーってしてはいけませんよ?」
「あいっ」
青藍も鶯に手を添えられながら上手に水を飲む。
最初は勢いよく飲んでいたが、……べー。
「あ、こら。もういらなくなったからといってべーをしてはいけません」
「あいあ〜」
「まったく、これは遊んでますね……」
鶯は持っていた手ぬぐいで青藍の口回りを拭いた。
萌黄が心配そうに鶯と青藍を覗きこむ。

