「子ども達を連れてきて良かったな」
「はい。こんな姿を見られるなんて、また連れてきてあげたいです」
「ああ、約束しよう。また連れてくる」
「約束してくれるのですね。ありがとうございます」

 鶯は安心したように言った。
 少し機嫌が戻ったような気がして黒緋は内心安堵する。
 だが黒緋は分からない。こうして子どもたちの前だと穏やかに接してくれるが、いったいなにが鶯の機嫌を損ねてしまったのか……。原因は自分なのか……。
 原因が自分以外なら排除するのみだが、自分が原因なら理由を聞かせてほしい。でなければ自分はまた後悔する。

「なあ鶯」
「見晴らしのいい丘があるんです。行ってみましょう。そこからなら斎宮がよく見えるんですよ?」

 鶯はそう言うと歩きだした。
 そんな鶯の後ろ姿に黒緋はスッと目を細める。
 ……どういうつもりだと、ちりりとした怒りが(くすぶ)る。
 さっきのあれはわざと(さえぎ)った。話しかけた黒緋を拒絶したのだ。
 不愉快だ。
 いくら相手が鶯とはいえ話を聞こうともしない態度は不愉快でしかない。
 だが。

「……くそっ」

 黒緋は小さく吐き捨てた。それは自嘲(じちょう)だ。
 以前の自分なら不愉快さに鶯を突き放しただろう。ならば必要ないと遠ざけた。追いかけることは(しょう)()わないからだ。
 しかし今、鶯を振り向かせたい。
 遠ざかる後ろ姿を追いかけて、その腕を強引に掴んで振り向かせ、俺を拒むなと引き止めたい。体も心も、鶯のすべてを。

「あぶぶっ。あー!」
「ああ、分かってるから髪を引っ張るな」

 黒緋は騒ぐ青藍を(なだ)めた。
 歩きだした鶯を追いかけろと言うのだ。そんなもの言われなくても分かっている。どこまでも追いかけたい相手なのだから。