んーっ……!
パソコンを閉じて、大きく伸びをする。
まわりには柊馬と星願だけ。
悠里と湊がいないなぁ……。
目薬、使っちゃおっと。
箱から出して、使い捨ての目薬を取り出す。
目にさすと、目が潤っていくのを感じる。
そのとき、ぐぅっとお腹が鳴った。
……お腹すいた……喉も乾いた……。
何か買ってこようと思い、財布を掴んで立ち上がる。
図書室を出ると、何やら苦い顔をした湊とすれ違う。
「湊〜! お疲れ〜!」
そう言って湊を見上げる。
……あれ、顔色悪い。
「湊、どーしたの? 顔真っ青だよ?」
湊のおでこに手を当てて、熱を確認。
……うん、熱は大丈夫そう。
「湊、イス座って待ってて! スポドリ買ってくるね!」
小走りで近くの自販機に向かう。
えぇっと……。
見つけたはいいけれど。
「なんでこんな高いとこにあるわけ!?」
自販機の1番上の真ん中。
なんとか背伸びしてボタンを押そうと頑張ってみたけど……無理そう……。
思いっきりジャンプして、ボタンを押す。
「よっしゃ!」
ガコンッと音をたてて落ちるペットボトル。
ナイス、俺!
狙い通り、スポーツドリンクを購入することに成功!
ペットボトルを取り出して、ダッシュで図書室まで戻る。
ガチャリとドアを開けて、真っ先に湊の机に。
「湊、大丈夫? 買ってきたよ!」
机にスポドリを置くと、湊は顔を上げた。
「ん? あぁ……ありがとな。俺からも……」
俺の使ってる机を指さす湊。
ん? なんだろ……?
「え……カフェオレ?」
なんでカフェオレが?
「それ買いに行ったんだよ。やる」
えぇぇっ!
めちゃくちゃ美味しそう……!
「ありがとう!」
湊もスポドリをごくごく飲んでいる。
「ぷはぁっ、さんきゅーな。生き返ったわ〜」
「俺も飲もーっと!」
カフェオレのペットボトルのキャップを捻り、口をつける。
ごくり、と喉に流れる琥珀色の液体。
「んまっ!」
めっちゃ甘いけど後味スッキリ。しつこくない。
「みんな、そろそろ辞めて。解散……っていうか、お家に帰ろう」
悠里が帰ってきてそう言った。
「わかった」
「そうだね」
星願と柊馬を起こして、みんなで図書室を出る。
湊が入口のドアに手をかけた、そのとき。
「ってぇ!」
ぱっとノブから手を離す湊。
「どしたのー?」
悠里がびっくりした様子で港に聞く。
「なんか……バチッときた……」
「え? ……ウソ」
悠里もドアノブに手をかけて。
「っぅ……」
痛そうに顔を歪めた。
「大丈夫!?」
「俺にもきた……やばいかも」
「そんなにか?」
湊が再度握る。
「あっ、いたっ!」
どういうこと?
ドアノブを触ると電流が流れて……何度も触り続けると電流の強さが上がる、ってこと?
「ダメだよ〜、どこ行こーとしてるの?」
ぎゅっと後ろから抱きつかれて、振り向く。
「つ、月羅……!?」
目を見開いてそっと月羅の手を解いた。
「家に帰りたいんだけど……」
「何言ってるの? ダメに決まってんじゃん」
……え?
「君らは人質なんだよ?」
俺の首に手がまわされる。
「ひと、じち……?」
「お家の人には特別に、1日1回なら電話してもいいよ」
月羅はニヤッと笑って自分のスマホを取り出す。
俺もスマホを……。
ほんとかどうかはまだわからないけど、とりあえず連絡はしたほうがいいと思って。
もう時刻は7時30分をまわっていた。
急いでLINEを開き、蒼太兄のトーク画面から電話をかける。
プルルルル、プルルルル……プツッ。
2コール目で繋がった通話。
『もしもし、ちあ……白露か!? 今、どこにいるんだ!?』
焦った様子の蒼太兄が電話に出てくれた。
「蒼太兄、ごめん。色々話したいことがあるんだけど……今大丈夫?」
『あぁ、ちょっと待っててくれ。鍋の火、止めてくる』
その間にみんなに断りを入れてから席を外す。
簡単に状況を説明する。
「〜で、今アジトにいるんだけど……」
『それって、同い年の子しかいないのか?』
「うん」
蒼太兄は何やらゴソゴソと音をたてながら、何かし始めたようで。
『白露、今まわりに人いないか? 監視カメラとか、盗聴器とかないか?』
え?
監視カメラと……盗聴器?
ないと思うけどな……。
「まわりに人はいないっぽいよ」
俺がそう答えると、蒼太兄は呼び方を"千秋"に戻してくれる。
『なら、とりあえず多目的トイレに入ってくれないか? 今いる辺りから1番近い所でいい』
キョロキョロとまわりを見回しながら廊下を進む。
あ、あった!
おっきめのトイレに入って、鍵を閉める。
「入ったよ?」
『ありがとう。そしたら、オムツ台の所の裏に盗聴器があるはずだ。それを壊してほしい』
オムツ台の裏……えぇっ!? こんなところに盗聴器あんの!?
『どうだ? あったか?』
「あ、あったよ……!」
そうか……と呟く蒼太兄。
言われた通りに、足で思いっきり踏みつけて壊す。
バキッ……。
『じゃあ今からファイルを転送するな』
ファイル……? なんの?
すぐにファイルが送られてきて、タイトルを確認。
ええっと……あ、"アールアール逃走計画書"!?
「何これ!?」
『アールアールが籠城するときや、攻め込まれたとき用の脱出ルートが書いてあるんだ。とりあえず、スマホは取り上げられるかもしれないから、気をつけておくんだぞ』
「わかった……ありがとう!」
蒼太兄はどういたしまして、と言って通話を切った。
よし……やるぞ……!
トイレを出て、駆け足で入口へと向かった。