「千秋……大丈夫かな……」
心配そうに呟いた悠里に、柊馬がこくこくと頷いた。
「どうしよう……あいつスマホ持ってったっけ?」
慌ててスマホを取り出して、『白露』のトーク画面を開き、メッセージを送る。
立て続けに電話をかける。
「ちょっと、そんなバンバン送って大丈夫? なんか話してるかもよ?」
あっ……やべ。
でも、千秋の安全を確認したいだけだし。
「どう?既読ついた?」
悠里の言葉に首を振る。
「僕のも既読つかない……」
星願もスマホを操作しながら悲しそうに俯く。
「星願もか……まじで、どこ行ってんだろうな……」
それにしても……あいつ……。
月羅先輩……真宮さん。
良い人だと思ってたのに……っ。
ぐっと唇を噛み締める。
「大丈夫かな……」
今にも泣きそうな表情で拳を握りしめる星願。
「大丈夫だって! 千秋は大丈夫だよ」
そっと星願の頭を撫でて、既読も返信もつかないトーク画面をじっと見つめる。
「それより、今できることをしよう。海にも伝えなきゃいけないし。なっ?」
緊張感を解すように明るい声でそう言うと、悠里も「そうだな!」と立ち上がってくれる。
「僕ちょっと調べてくるね! 千秋のお兄さんについて!」
星願がそう言って部屋を出て行く。
「俺も行ってくるわ」
「俺トイレ」
各々立ち上がり、部屋には俺が1人残る。
よし。
覚悟を決めて、スマホの電源を入れた。
たくさんのアプリの中から『探す』アプリを開く。
『白露のiPhone』をそっとタップ。
「……っ!?」
なんだこれ……。
『現在地を特定できません。電源が入っていないか、海外にいる可能性があります』
かい……がい……!?
ゴトンとスマホが落ちる鈍い音が響く。
さらにバキッと画面が割れる嫌な音がした。
「千秋……どこにいるんだよ……っ」
ぎゅっとスマホを胸に抱いて、連絡の折り返しがくることをただただ祈る。




……ん。
あれ、寝てた……?
眠気の残る頭を抑えながらソファーから起き上がる。
キョロキョロと辺りを見回す。
……リビング。
っ!
「千秋!!」
はっと目が冴える。
「起きた? 湊」
悠里がお茶を飲みながら優しく微笑んでくれる。
「っ、悠里……」
「千秋、まだ戻って来てない」
柊馬の声が若干震えてる。
星願はいないし……まだ調べてんのかな。
「今何時」
「6時半だよ」
6時半……千秋が出て行ってから、2時間半……。
何やってんだよ……。
早く帰ってこいよ……っ。
「ほらほら、あまり気負わないで! お茶でも飲んで落ち着け。な?」
悠里からマグカップを手渡され、ごくりと1口飲む。
ふぅ……。
一息ついたところで、再度スマホを確認。
まだかぁ……。
そっと画面を伏せる。
そのとき、ガチャッと扉が開いた。
「っ! おかえり、ちあ、き……」
ぱっと飛びつく寸前。
「おま……っ、真宮!!」
反射的に1歩下がり、距離をとる。
「他人行儀だねぇ。まぁいいや! これ見てよ」
真宮さんがエアドロップで送り付けてきたのは……。
「写真……?」
許可の方を押して、写真のフォルダを開く。
「っ!?」
そこには、驚愕の写真。
「千秋!!」
千秋が手錠をかけられていて、眠っている様子。
「にしてんだお前ぇっ!!」
飛びかかろうとするのを後ろから抑えられた。
……悠里。
「落ち着け湊! ここで手を出して千秋も……海も被害にあったらどうするんだ!!」
はっと動きを止める。
……そう言えば、おんなじこと千秋に言ったっけ。
俺、かっこわる。
「えぇっと、じゃあ話してもいいかな」
もったいぶるな、早く話せよ……っ。
「まずは、目的からお話しするね。単刀直入に言うんだけど、俺の相方も一緒に探してほしいの」
真宮の……相方?
「俺の相方……日和って言うんだけどね、同じ歌い手仲間兼相棒って感じの奴だったんだ」
どこか遠くを見つめながら、苦しそうに微笑む真宮。
「ある日の仕事で、日和は姿を消してしまったんだ。消息も不明になってね」
1呼吸置くと、真宮は息を小さく吸った。
「ついでになってもいい。……日和を、捜してほしい。どんな結果だって、行方がわかればいい……」
そう言って悲しそうにため息をつく。
「っ、千秋を早く返せよ」
ムキになってそう言うと、真宮は自虐的に微笑んだ。
「ごめんね、実はウソなんだ」
は?
……ウソ?
そのとき、ガチャリと扉が開いて。
「千秋!?」
千秋、千秋……ほんとに!?
「千秋ぃぃぃっ!」
千秋を思いっきりぎゅっと抱き締める。
「拘束は……? 手錠とか、自力で外したのか?」
俺の言葉に、不思議な表情を浮かべた千秋。
「拘束? なんのこと?」
は?
空いた口が塞がらない。
「全部じゃないけど、千秋を拘束したのはウソだよ。日和を捜してほしいのはほんと」
騙してごめんね、と笑う真宮。
「よかったぁ……」
悠里も胸を撫で下ろしている。
「それにしても、どこに行ってたんだよ」
柊馬が不思議そうに尋ねる。
「谷津世ゼミナール!」
隠すような素振りもなく、笑ってそう答える千秋。
「や、谷津世ゼミナールって……海が言ってたあの!?」
驚いたような顔をしてみせる悠里に、千秋はぱっとスマホを見せてきた。
「見て! この人、俺のいとこだったや!」
千秋のスマホに写っていたのは、1枚の写真。
大人の男の人が、千秋と肩を組んでピースしている。
千秋と同じ青色の髪で、笑ったときに覗く八重歯。
「そっ、蒼太さんっ!!」
なんで、蒼太さんが……!?
「塾の先生、蒼太兄だったみたい」
笑いながらそう答える千秋。
なるほど……!
蒼太さんも一応"有栖"なわけで。
Aセンセーっていうのは、有栖のAだったってことか。
「これでふりだしかぁ……」
残念そうに息を吐く千秋の頭を思いっきりグリグリする。
「いたたたたたい痛い痛い!!」
変な悲鳴を叫びながら抵抗する千秋。
最後に強烈なデコピンを1発。
「あだっ!」
涙目の千秋にざまーみろと舌を出す。
「なんでよっ」
「俺らに黙って出て行った罰」
俺の言葉に千秋はハッと口に手を当てた。
「ごめんなさい……」
千秋の頭を優しく撫でる。
「こうして無事に帰って来てくれたからいいよ」
それから、アジト内にある図書室に移動して、何時間も千秋のお兄さんについて調べたけれど、有力な情報は何も見つからなくて。
疲れ果ててパソコンに突っ伏す。
目が痛てぇ……。
備え付けの目薬をさして、周りを見る。
柊馬と星願は机に突っ伏してるから多分寝てる。
悠里は……トイレか?
そっと隣を見ると、真剣な表情でキーボードを叩いている千秋。
「千秋、1回目薬さしな」
目薬を机に置くと、千秋は数秒固まったあと、びっくりしたように振り向く。
「え?……あ、ありがと」
目薬の蓋を開けるのを確認して、なんか飲み物でも買って来ようと図書室を出た。