「もういい?はく」
「うん、大丈夫だよ」
こくりと頷いて、ドアを閉める。
次は……2階か。
階段を登っている途中、壁に封筒が立てかけられているのが目に入った。
「ねぇ湊……?」
「ん?」
封筒を見せると、湊はさっと顔色を変えた。
「っ、え……!?」
封筒を開けてみると、なんと大量の札束。
しかも……い、1万円札!?
「麻薬の金だろーな……一応持ち帰ろう」
湊がバッグにしまったのを確認し、階段を登っていく。

2階も……異常無し、かぁ……。
はぁっとため息をつく。
もうこのビルに来てから3時間。
収穫は麻薬ぐらい。
マフィアって大変だなぁ……。
そう思いながら総長室のドアを開けて、中に入る。
「すっげぇ……立派」
がさごそと荷物を漁っていると。
「動くな!」
いきなり閉めていたはずのドアが開いて、銃を構えた男たちがなだれ込んできた。
「わっ!?」
「おぉ〜っと?」
湊が素っ頓狂な声を出す。
「その場に止まって、手を挙げろ!」
男の指示に、大人しく従う湊。
俺も手を挙げて、相手を観察する。
この人……見た目からしてかなり弱そう。
銃を構える姿勢が良くないし、目つきもオーラもたいしてない。
でも……その後ろにいる男2人はなかなかやりそう。
めんどくさいかも……。
顔を隠すように若干俯く。
前髪がふわりと動いて、目元を隠す。
「ん?」
後ろにいた男(Aと仮定)が近づいてきて、俺の顎を掴んだ。
っ!?
ぞわりと鳥肌。
男Aと目が合う。
「可愛い……」
は?
さらに寒気がしてきて、泣きそう……。
「お前。来い」
来いの"い”の字が言われる前に、咄嗟に男Aを投げ飛ばしていた。
「なっ……おい、新庄!?」
どうやら男Aは新庄くんらしい。
「っ、そこの女の子!止まんないと、う、撃つぞ!」
めっちゃプルプルしてるけど……。
その言葉を振り切って近づき、銃を殴り飛ばす。
「った……!」
湊がすかさず銃を拾い上げて、カチャリと構える。
「ないす」
「どういたしまして」
パチッとウィンク。
俺も拳銃ホルダーから銃を取り出して、弾を込める。
「ねぇ、マルクのデータは?」
俺の問いかけに、ぴくりと反応する男B。
髪をふわりとかきあげて、銃を持ったまま総長室を歩き回る。
うーん……。
色々物色していたとき。
ぐっと後ろから首を掴まれた。
「動くな」
「なっ、はく!」
焦ったような湊の声。
「あれ、油断してた?俺、これでもマルクの"総長”だよ〜?」
そう、ちょう……。
なるほど……わざと弱いフリをして油断させてくるタイプか。
「じゃあ……ゆっくり情報でも吐いて……」
総長がそう言った瞬間。
首にかかった手を掴んで新庄の方に投げる。
「ったぁ……!」
メンバー同士がぶつかっていて、ちょっと痛そう。
「なんだ……この女強いぞ……っ」
総長がそう呟く。
拳銃を総長の顎に当てる。
「早く、データの入ってるパソコン」
湊がギロリと男Bを睨む。
男Bは慌てた様子で部屋を出て行くと、パソコンを持って帰ってきた。
「こっ、これです……!」
額に冷や汗をかきながら必死にパスワードを打ち込む男B。
3回ぐらいパスワードを打って、ようやくたどり着いた1つのファイル。
ざっと目を通すと、年表みたいに出来事が記録してあった。
うんうん……なるほどね。
「よぉし、ありがとねっ」
「もう君らは用無しだから」
ニコッと微笑んで、パチンと指を鳴らす。
アールアールの人達が一気に入ってくる。
「うわっ、なんだよ離せ!」
悲鳴を無視してアールアールの人達が男たちを連れて行く。
「よーし、初仕事完了ー!」
「いぇーいっ!」
2人でパチンッとハイタッチ。
はぁっと安堵のため息を1つ。
無事に終わって良かった……!



アジトに戻り、悠里のいれてくれたココアを飲みながら話す。
「大成功だったな!まさか総長を捕まえられるなんて思ってもいなかったぜ」
「そうだね!総長がいっぱい情報を吐いてくれるといいんだけど」
湊があくびをしながら差し入れのクッキーを摘む。
こっちは星願一押しのスイーツ店ミルケーキのクッキー。
プレーンとチョコチップ、レーズン入りの3種類がテーブルに並ぶ。
同い年組が集まって、みんなでクッキーを囲んでお喋り。
「待って俺レーズン無理なんだけど」
そう言ったのは柊馬。
「え〜っ、柊馬レーズン嫌いなの!?」
パクパクレーズンクッキーを頬張る悠里に、柊馬は顔をしかめて言った。
「だって不味いじゃんか……」
俺は同意しないなぁ……こんなに美味しいのに。
ぺろりと粉のついた唇を舐めて、また味の違うクッキーを取る。
「海はこーゆードライフルーツ系好きだもんな?」
「俺もあんまレーズン好きじゃない」
「はぁぁ!?」
ドライフルーツ好きならレーズン好きじゃないの意味わからん、とブツブツ呟く悠里。
「ってか白露はいつウィッグとんのさー!」
「えっ?あ、忘れてたっ!」
笑いを含んだ星願の指摘にびっくりしてウィッグを脱ぐ。
「もうそれ女の子じゃあーん」
「待って待って、やめて〜!」
笑いながら否定する。
俺はれっきとした男の子だよ!
「ほんとかな〜」
「ほんとだってば!」
そんなたわいもない話をしながら、初仕事の1日は終わった。