ギルバート達の前に現れた子供達の様相は――これは……完全武装だろうか。

 見慣れたマントを着ていて、それなのに、黒地ではなく、なんだか、緑色が多い色の混ざった(迷彩色)もので、ケープハットを深く被り、全員が、マントの下にスッポリと隠されていた。

 またも――異様な光景に、騎士達が唖然としている。

「――その装備の説明をお願いしても?」

 ギルバート達も本気を見せなければならないだけに、騎士団の制服のジャケットを脱ぎ去っていた。
 中に着ているシャツ一枚で、剣も外している。それで、腰紐だけを括っている。

 五人がセシルに視線を向ける。

「では、ジャン、見せてあげてください」
「わかりました」

 ジャンは一歩前に出て、両手でマントを広げるようにした。

「まず、基本装備は、このマントにケープハット。中には、小型のナイフが一つ。利き足とは反対の太腿に」

 これは、紐や縄などを切る為の簡単な動作の為に。戦闘用ではない。

「ハンティングナイフが必要な時は、その必要に応じて。反対の太腿に皮ベルト」

 これは、敵の捕縛用に使用される。

「腰に剣」

 今回は、木剣ということで。

「胸に皮当て。一応、心臓を守るという働きで。その他に、吹き矢や、薄い飛びナイフを入れることもあります。右腰にボーガン。背にはボーガンの詰め替えの矢を。全員、手袋の使用。私のは、指が邪魔になるので、先端の指の部分を抜いてあります。それから、個人個人で、必要な装備を加えていきます」

 一転して、戦士の顔つきに変わったジャンが、考えもせずに、スラスラ、スラスラと、自分の装備を説明した。

 ギルバート達全員が――信じられない顔を浮かべ、口が半ば開きかけていた。

 こんな子供なのに、あまりに説明することに慣れた態度。戦いに行くというのに、怖気(おじけ)も見せない気概(きがい)

 そして、本気の――重装備……。

「質問は?」
「――――ありません」

「では、私達のチームに参加する方、こちらにいらしてください。作戦会議を始めます」

 ジャンが、フィロとトムソーヤに顔を向けると、承知した、と二人が頷く。

「それから――今回は、本気を出して良いとの指示がでていますので、全速力で駆け回ります。ついてこれない場合は、その場で置いていきますので。味方であろうと、関係ありません。私達の目的は先制攻撃。全部叩き潰せ、との命です。先制攻撃には、速さが必勝。ですから、置いて行かれた場合は、その場で残っていて下さい」

 子供なんかに、命令される謂れはない、なんて威張っていられる状況ではない。
 それだけの――緊張と、戦闘本能が――あまりに本気だった。

「問題ありません。本気でどうぞ」
「わかりました。私達のチームに参加する方は、どうぞこちらへ」

 それで、ギルバートとクリストフ、二人の騎士がジャンの方についていく。

「――ナンセンさん、と言いましたか?」
「そうだが」

「私達は本気でかかります。ただ、負けた時は、手を抜いたとは、思わないでください」
「――負けた、時?」

「ええ、そうです。フィロ――向こうのチームにいる一人。悪の親玉です」
「悪の、親玉?」

 ナンセンが、激しく首をひねってしまっていた。

「そうです。悪巧み大王です」

 ハンスまでも、揃って、同じことを言う。

「悪巧み、大王? それは、一体……」
「私達も本気を出しますが、あのフィロを相手に、私達の誰一人、一勝した者はいません」

「まさかっ……!?」
「事実です。ですから、手を抜いた、とは考えないでください」
「いや――わかった……」

 そして、またしても、信じられない話を聞いてしまったナンセンだ。

「――君達の基本装備だが……。個人個人で必要なものを加えるという場合、君達は何を……?」

 ケルトがなんの気概(きがい)もなく、いきなり、腕を思いっきり突き出すような動きをみせたのだ。

 そして、拳を握った手袋の上に――なにか、シルバーのボコボコとしたものが、指の上にはめられていたのだ。

「ナックルリングです。折り畳み式のナイフがついて。今回は、これで殴り飛ばすことはできませんが、私の装備の一つです」

 五人の騎士達が唖然として、かなり顔を引きつらせている。

「――そんなもの……、一体、どこで……?」

「領地で開発したものです。必要ですから。私達は、相手を殴るにも力が足りない。だから、このようにナックルリングをすると、拳を守ることができ、殴りつけた相手にも、加速分だけ力が加算されます」

 そして、その説明で、さらに絶句する騎士達全員。

「ほぼ、全速力で走り回りますので、しっかりついてきてください」
「――わかった……」

 子供達の迫力に気圧され、ゴクリと、残りの騎士達も喉を鳴らすほど、緊張がひしひしと伝わって来た。

「それでは、行きます」
「――作戦、は?」

「私達の場合、先制攻撃なら、ほぼ、直進で攻撃するしか方法はありません。なにしろ、相手はフィロですからね。フィロ相手に、下手な作戦を立てても、時間だけ食い、その間に、フィロに完全にやられてしまいます」

「――そう、か……」

 それで、ジャンのチームも、ケルトのチームも、7対7。それぞれの戦闘開始場所に、出発していった。

 それから模擬戦の鐘が鳴り、それぞれのチームが――子供達に先導されて、森の中を疾走していく。

 子供なのに――それも初めて組んだ騎士団との連帯なのに、動きの方向を、偵察の方向を指示し、敵方に遭遇しての接戦でも、互いの子供達が参戦してきて、そんなことが40分程続いていた最中、戦闘不能で模擬戦中止の警笛(けいてき)が慣らされた。

 それから、しばらくして、森の中を疾走していた全員が戻って来る。

「結果はどうでしたか?」
「2対0で、私達のチームの勝ちです」

 ジャン達が、最初の一勝を取ったようだった。

 戻って来た騎士達は――ほぼ、40分ほど、でこぼこの森の中を全力疾走した形で、ゼーゼー……、ゼーゼー……と、前屈みになって、かなり肩で呼吸をしている者がほとんどだ。

 セシルはまだ腰紐が付いている二人を見て――どうやら、今回()、トムソーヤを()()()、ジャンとフィロが生き残ったような結果を見取っていた。


(まったく、この子達ときたら――)


 敵を殲滅(せんめつ)させる為なら、躊躇(ためら)いなく、味方を敵方に送り付けてくるのだから。

 今回は死闘でもない、木剣の模擬戦だと十分に分った上での()()だろうが、本当に、困った子達である。

「どうでしたか?」
「――すごい……ですね。あの統率力。一体、どこで……」

 ギルバートも、かなり呼吸が乱れていた。体力には、誰よりも自身があるギルバートにしては、本当に珍しいことだ。

「領地で、ですが」

「いえ、そういう意味ではなく――。初めて混ざって来た我々がいても、混乱もせず、指揮系統の指示が的確で、説明が的確で、簡潔で、あまりに、人に教えることに慣れ過ぎているものだな、と感じまして」
「領地では、全員、そのように訓練しておりますの」

 そして、あまりに何でもないことのように説明するセシルに――ギルバートとクリストフが絶句。

「――そう、ですか……」

 さすがに――予想を遥に超え凄すぎだろう……?

 そんな独白を、セシルは知っているのかいないのか。