新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

「副流煙を陽子ちゃんが吸っちゃったりするのが、 嫌だったんじゃないのかな? 受動喫煙が良くない事ぐらい、 貴博はわかっていたはず。 そもそも、 彼奴は他人に迷惑をかける事を、 極端に嫌うところがある。 それなのに、 ずっと煙草をやめなかった。 やめられなかったんじゃなくて、 やめなかったんだと思う」
そんな……。
「体に良くない事ぐらい、 百も承知だったはず。 まして、 扁桃腺持ちだし。 それでも、 やめなかったのは……世捨て人になっていたこともあるけれど、 煙草を嫌う人が多くなってきたでしょ? だから、 人を寄せつけたくない小道具として吸っていた気がするんだ。 まあ、 本当のところは当人でないとわからないけれど、 何となくそう思えるんだよ。 俺には……ね」
人を寄せつけたくない小道具として……高橋さん。 そんなに、 ミサさんとの別れが辛く苦しいものだったの? 改めて、 ミサさんの存在の大きさを実感した。 でも、 仁さんに言われて思い当たることがあった。 そう言えば……最近、 私の前であまり煙草を吸わなくなった? 高橋さんの煙草を吸う本数が、 出会った頃より少なくなったなとは感じてはいたけれど。 まさか、 そんな風に考えてくれていたなんて……全く知らなかったし、 気づきもしなかった。
「仁さん……」
「なに?」
「私……高橋さんは私の事、 本当に考えてくださっていて……凄く嬉しいです。 嬉しいんですけど……」
「けど……?」
そこまで言って、 後ろめたさも手伝って俯いた。
「私、 何も高橋さんに出来なくて……。 いつもボーッとしているから、 気づかなくて……気づけなくて。 高橋さんが辛い時も、 全然気づけなくて。 だから、 そんな風に私も高橋さんに何かしてあげたくても、 出来なくて。 それが、 とても苦しかったりもするんです」
「……」
仁さんは、 何も応えてはくれない。 みんなのはしゃぐ声と波の音だけが、 耳に届いていた。
こんな事、 仁さんだって言われても困るよね。
「ご、 ごめんなさい。 こんな事、 仁さんに言ったりして……ご迷惑ですよね。 すみません。 忘れて下さい」
間が持たず、 急いでミネラルウオーターを一気に飲んだ。